百姓農園の夏野菜の植え付けスケジュールとその決め方。地域の気候に合った時期に種まきしよう。

種袋の裏に書いてはあるけれど

 夏野菜に限らず、野菜の種をまいたり、苗を植える時期を決めるのは難しい。当然自然相手だから毎年同じ日というわけにはいかないし、そのタイミングを間違えると野菜が枯れたり、痛んだりしてしまう。近くに同じ野菜を育てている人がいれば、例年の時期を教えてもらうのも一つの手だ。地元の種苗店に行ってもいいかもしれない。
 しかし、なかなかそういった菜園仲間がいなかったりすると、自分の地域の気候を掴んで種まきなどをするのは難しい。人づきあいが苦手な人もいるだろう。

 種を買うと、多くの場合、紙の袋に入っている。種袋の裏には重要な情報が沢山書かれている。発芽適温や生育適温、種の生産地や種子消毒の有無などだ。初めて栽培する野菜では必ず確認しておきたい。
 裏面には必ずと言ってよいほど、次のようなグラフが載っている。横軸が月で縦軸が地域ごとに分かれている。

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 それを見ると、自分の地域に当てはめてある程度の種まき時期や栽培時期が把握できる。主に、寒冷地、一般地、暖地の三区分に分かれていることが多い。この栽培暦を参考にすれば大雑把に検討をつけることができる。

 私たちは設置するのも、撤去するのも面倒臭いビニールマルチは使わないことにしている。当然何も資材を使わない場合は使う場合に比べて、地温や気温がよりシビアになる。種袋の通りに種まきしたり、定植をすると早すぎることがある。

 

夏野菜は16度が判断の分かれ目

 夏野菜の種まきをができる目安となるのは最高気温が16度を超えてからだ。体感的には冬の日々とは打って変わって、かなり温かく感じる。

 そして定植は平均気温が16度を超えてからが目安となる。ここまでくると遅霜の心配もなくなり、春の気配も無くなる頃だ。大体、最高気温を16度を超えてから二ヶ月ほどで平均気温が16度くらいになる。

 ナス科野菜は育苗期間を二ヶ月とすると種まき可能日と定植日がから遡って二ヶ月がほぼ同じになる。ピーマンは特に低温を嫌うため、トマトなどから一週間遅らせてもいいだろう。

 私たちは今シーズンのナス科野菜は3/26に種まきをした(→今年の夏野菜の種まきのきじはこちら)。これは5/25から苗の定植を始めたいからで、このころから平均気温16度になる。育苗期間は二ヶ月を予定している。現在、発芽してから約十日が経過している。

 きゅうりやズッキーニ、オクラなどは育苗期間が二週間から一ヶ月となるため、それを考慮して種まき日を決める。直播をするなら平均気温が16度くらいになるまで待った方がいいと思う。苗を作るなら育苗期間分遡って日付を決めると良い。

気象データは気象庁でチェック

 このような気温データは気象庁のホームページから得ることが出来る。→https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html

 最低気温、最高気温、平均気温などが月別、日別でまとまっている。これを参考にして種まきの日を決める。同時に日記などに霜の有無や風の強さを温度とともに記録しておくと便利だ。特に霜の有無は夏野菜の生育初期や採種の日程決め、秋冬野菜の種まき目安にもなるので記録しておくといい。人の記憶はあいまいなのでしっかりと言葉で残しておくのが安心だ。

 また実際に種まき予定日、定植予定日が近づいたら天気予報もチェックする。一週間くらいはかなり正確な予報となるため、作業の参考になる。どこが出している予報を見るかで少しずつ変わってくるため、最低でも二つは確認したいところだ。もし、種まきを予定していて、しばらく雨がなくて高温が続くようなら多少早くとも雨の次の日に播いてしまう選択肢もある。逆に低温が予想されるようなら1,2日くらい遅らせても収穫開始は大して変わらない。

 時期を少し遅らせても収穫できる日は大して変わらないと言うのも結構大事だと思う。夏野菜は温度管理がとても難しい二月初旬に播いても、気温が上がってくる三月に播いても、収穫時期は一週間ほどしか変わらないことが多々ある。

 無理して早播きしても、苦労や心配が多い。野菜にも無理を掛けることになる。それよりゆとりを持って楽な時期にした方が後の生育も良くなって、結果美味しい野菜が採れる。旬の時期、適期適作が美味しい野菜作りには欠かせない。

 昨今は一年中同じ野菜がスーパーで手に入るようになった。品種改良、耐病生の向上、栽培技術や資材の進化、流通の発達のおかげだ。でも、真冬に食べるトマト、きゅうりは美味しいだろうか。食べたくなるだろうか。自給栽培をしていれば、必然的に旬の野菜をたくさん食べることになる。それが自然だし、身体にもいいと思う。そして、自然の流れに身を任せる生き方ができる。これが何よりも贅沢で、幸せだと思う。いや、そう思える暮らしをしていきたい。

【天地返し】自然農一年目から収穫できる畝作り。1年かけて検証もしていきます。【自然農】

自然農も万能の農法ではない

 無肥料無農薬でしかも耕さなくても、十分野菜が育つと言われているのが自然農だ。一言に自然農といっても明確な定義があるわけではなく、様々なやり方がある。私たちは無肥料無農薬不耕起での野菜作りを自然農と呼んでいる。最終的には自分たちの食べる分は自分達で作りたいと思っている。

 日本全国を見れば、自然農や自然栽培でかなりの収穫を上げているひとはたくさんいる。慣行農法と同等とはいかないまでも7割くらいの収穫をしている例はたくさんある。

 自然農が万能の農法ではない、というのは初めたばかりではそういった十分な収穫が得られないことも一つの要因だ。実際、私たちが本格的に自然農を始めた昨年はトマトやナスなどの果菜類はほぼ収穫できなかった。

2021 トマト これしかできなかた
何とか成ったミニトマト
2021 ナス これ一本だけ
一本しかできなかったナス

 先駆者たちの話しでは、大抵の作物が育つようになるまで7年ほどかかると言われている。自然農では有名な川口由一さんも同じことを言っている。Youtubeで自然栽培、自然農での野菜作りを発信している高内実さんや今橋伸也さんも似たようなことを話されていた。

 自然農での野菜作りは長い年月をかけて、いろんな野菜が育つことができる土に変わっていくのを待つ必要があると言うことだ。肥料などは使わないが、そこに生えた草を刈り敷いていくことでそれを食べる小動物や微生物によって土は肥えていく、というのが自然農の真髄なのだが。なかなか人間の求める速度では変わっていかない。でも、実際一年目の野菜作りでほとんど収穫がないとかなり辛い。それで自然農や野菜作りそのものをやめてしまうのはとてももったいない。

 そこで今回は自然農一年目から、荒れた畑でもある程度野菜が育つようになるという方法を紹介しようと思う。

天地返しをしてから畝を立てる

 これから紹介する方法は天地返しと言われる方法で、一般的な栽培技術として活用されている。この方法は現代農業 2022年4月号 270ページに掲載された記事を見て知った。この記事の筆者、中尾佳貴さんは島根県在住で自給農をしながら、自然農とパーマカルチャー講座の講師をされている(→ホームぺージ)。

 中尾さんご自身が自然農を始めて一年目、ほとんど収穫がなかったことから、一年目からある位程度の収穫を出来ないか試行錯誤し、その内の一つを紹介して下さっている。

 それは畝の中央に深さ30cmで半分ずつ天地返しをする、というものだ。天地返しは単純で、上半分の土と下半分の土を入れ替えることである。固く締まった土でも、天地返しをすることで土がほぐされ、野菜が根を伸ばすことができるようになる。

 さらに長年、機械による耕耘によってできた硬盤層を破壊することができる。硬盤層は地中20cmあたりに出来る、特に締まった層で、排水性を悪くしたり、根が伸びられる範囲を狭めてしまったりと困り者だ。硬盤層は自然に草を生やしておくことによって、時間を掛けて無くしていくことができる。しかし、時間がかかるので物理的に破壊することができると、その障害を早く取り除くことができる。

天地返しのやり方と注意点

 では天地返しのやり方を紹介する。

 必要な物は・剣先スコップ・鍬・紐・ビニールマルチ(ブルーシート)だけだ。このうち紐とビニールマルチは無くてもできる。あると作業が多少楽になったり、綺麗に出来るので準備が出来れば有った方が良い。

 まず畝を立てる場所を確認する。既に出来ている畝を天地返しする場合は畝の中央を確認する。もしビニールシートがあれば、掘り返す部分の横に左右どちらとも敷く。この上に土をのせていくと埋め戻す時に綺麗に戻すことができる。

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ちょっと黒くなっているところを天地返しする

 次に畝の中央を剣先スコップの幅分で掘っていく。一回目で15cm分の土を掘りあげる。土は左右どちらかと決めて置いて、片方に集めておく。雑草が混ざってもあまり気にしない。

15cmほる
上の層を掘り上げたところ


 スコップだけだと全部を掬うことはできないため、崩れた土を鍬ですくい上げる。これで地上から15cmの深さの溝が出来る。

 次はさらに15cm深く土を掘っていく。このとき掘り上げた土は最初とは反対側に上げていく。このとき長年、耕耘されて雑草もあまり生やさないような管理をされてきた畑だと、かなり固いことがあるようだ。大きな石が出てくる事もある。

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深い溝ができた
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断面。真ん中に色が変わっている層がある(硬盤層?)

 両側に土を掘り上げたら、順番を入れ替えて埋め戻して行く。このとき、溝の最下層にもみがらやもみ殻燻炭、刈り草などを10cmほどになるように踏み込んでおくと、雑誌の記事では紹介されていた。今回は諸事情により何も入れずに埋め戻した。

 この後、通常の畝立ての作業となる(→自然農での畝の作り方)。通路の土を掘り上げて、高さ15-30cm程の畝に仕上げる。この作業は種まき・植え付けの3週間以上前に行う。

 自然農では一度立てた畝は何年も補修しながら使っていく。生えた草を刈り敷いて、三年ほどでたいていの野菜は育つようになるようだ。

普通の畝を横に用意して比較実験

 この作業で野菜が育つようになるのは、締まった土が強制的にほぐされ野菜の根が伸びられる空間を確保できることが一番大きいと思う。また、硬盤層を破壊することで水はけなども改善され、より野菜が育ちやすい環境に近づく。

 今回は①天地返しをした畝、②通常の方法で立てた畝の二種類を同じ畑に用意して比較実験をしようと思っている。なるべく多くの種類の野菜を作付けしてみたい。特に大根やニンジンなどの根菜類、キャベツ、白菜などの結球野菜は柔らかく、肥えた土でないとうまく育ちにくいため、差が確認しやすいと思う。

 現代農業の記事では、天地返しをせずに硬盤層を破壊する方法として、緑肥の活用を勧めていた。ライムギなどのイネ科植物は地下深くまで根っこを伸ばし、土を耕してくれることが知られている。春先に緑肥を播いておけば、秋作では天地返しは不要と書かれている。

 個人的には雑草を生やしておくだけでも十分土は柔らかくなると感じているため、もし可能なら3番目の比較対象として、③通常の畝立て+ライムギによる硬盤層破壊を加えて比較したいと思っている。

 インスタグラムでも逐次様子を写真と共に紹介して行きたい。

【自然農】不耕起畑での畝の立て方 必要な道具と手順【不耕起栽培】

不耕起の畑での畝立ては数年に一回の大仕事

 畝は野菜を作付ける場所に土を盛った一段高い場所である。畑の環境をなるべく育てる野菜が好む環境に近づけるために、土を動かすことで環境をコントロールする。
 高さが出ることで水捌けが良くなったり、日当たりを改善できる。水捌けの悪い畑でも、加湿を嫌う野菜を育てるために一般的に取り入れられる技術だ。また野菜が根を伸ばせる深さを深く出来るので生育も良くなる。

 普通の畝作りは、まず土を耕すことから始まる。トラクターや耕耘機、鍬などを使って、土を耕す。すると一面真っ平でふかふかな土になる。そして、畝立て用のアタッチメントを取り付けた耕耘機や鍬などで掘り上げて畝にする。高さや幅は作付する作物や作業によって最適なサイズに変えていく。
 さらに立てた畝に、雑草防止や保湿、保温のためにビニールマルチを張ることも良くある。畝立てと同時にマルチを貼っていくこともできる機械もあり、大規模に農業をするなら必須の作業となっている場合がほとんどである。

 一方、私たちが取り組んでいる自然農的栽培ではなるべく土を耕さないことにしている。土を耕すことで得られるメリットとデメリット、耕さないで得られるメリット・デメリットを考えて、耕さない方を取った。

 もちろん自然農でも畝を立てることは有効な手段だ。畝を立てることは水はけが良くなることや、日当りをよくすること以外にもいろいろな意味、目的があると思うがそれはまた別の機会にまとめようと思う。
 自然農や不耕起栽培では一度立てた畝を毎年作り直すことはしない。普通、同じ畝を数年繰り返し使う。使っているうちに形が崩れてきたりするので都度直しながら使う。つまり、不耕起だと畝を作る作業は数年に一回で済み、かなりの省力化につながる。

 今回は自然農、不耕起栽培での畝の作り方について紹介しようと思う。畝作りはかなりの重労働で、一般的な畝立てよりも時間が掛かるので段取りが大事になる。

畝立てに使う道具

 自然農での畝立てに使うのは次の道具だけでいい。あとはそれを使う自分自身の体力が必要になってくる。

・草刈機
 生えている草を刈ってからの方が作業しやすい

・剣先スコップ
 地面に切り込みを入れ、土を畝上にあげるため

・鍬
 みぞに残った土をすくい上げる用

・(あれば)レーキ
 畝上の土を均す

 これだけあれば十分畝立て出来る。小さい畝なら、草刈機がなくても手鎌で十分出る。

①草をかり、畝を立てる場所をひもで区切る

 自然農、不耕起の畝立てはまず草を刈ることから始まる。耕していない土の表面には草が生えていたり、枯れた草が層になって残っている。草が生えたままだと、次の作業がやりにくくなったり、畝が出来た後の作付にも悪影響が出ることがあるので丁寧に刈る。

 未分解の草(有機物)を土の中に埋めると分解時にガスが湧いて、植物の根を痛めてしまう。そのため、なるべく生えている草が残らない様に地際で刈っていく。
 刈った草は地面に溜まっている枯草と一緒に熊手やレーキで予定地の外によけておく。こうして畝を作りたい場所の土をむき出しにする。このとき、作りたい畝の幅より若干広く開けておくと、次の作業がしやすくなる。

 次に立てる畝の大きさに沿って、ひもを張る。こうすることで綺麗に真っ直ぐな畝を立てることができる。慣れないうちは面倒でも、ひもを張ることをおすすめする。ひもに沿って真っすぐに畝を立てておくと、その後の草刈りや植え付けの際も楽になる。

通路部分の土を掘り上げて、畝上に盛る

 畝の形通りに紐が張れたら、次はその紐に沿って切り込みを入れていく。紐なしでこのライン付けをすると、ほぼ確実に曲がってしまう。ぐるりと切り込みが入ったら、今度はスコップ一本分あけて、平行に切り込みを入れていく。こうすることできれいに土を掘り上げていくことが出来る。特に耕していない場合、草の根が邪魔することがあるので必ず切り込みを入れる。

 次は二本の切り込みの間の部分の土を内側に掘り上げていく。掘りとった部分の地面は下がり、畝に土が盛られていく。土を掘り取ったところが畝間となるため、ひろい畝間にしたい場合は切り込みの幅を変える。
 同じ畝を横に作ると、畝間が倍の幅に広がるためそれを考慮に入れておく。一般的な剣先スコップの幅は20cmなので畝間は40cmとなる。基本的にはこれで十分な広さが確保できる。

 また切り込みの深さで掘り取れる深さがほぼ決まる。スコップの面は高さ30cmなので垂直に突き刺して掘るとかなりの深さになる。水はけの良し悪しによって変えていくが、実際の畑の様子や経験を頼りにする。
 少しずつ畝の高さは低くなっていくため、若干高く感じても数年使っていくうちに丁度良くなるだろう。

 次に畝上に上げた土をほぐしながら、かまぼこ型に整えていく。取り立てて注意することは無い。なるべく草が埋まらないにしたいが、完全には不可能だ。
 土の塊もある位程度ほぐしてあれば十分だ。これも草が生えて、野菜を作付けする過程で次第に馴染んでいく。
 北側から南側に向けて少しだけ傾斜をつければ日照が少し良くなるだろう。水はけが特に悪い場所があれば、意識してそこを高めにして傾斜を付けた畝にするともっと良いのかもしれない。

 これで畝立ての完了だ。少し時間がかかるが、これから数年はこの作業をする必要はない。作付する前後に少し畝の形を整えるだけでいい。

なかなか大変な作業だが、直に土に触れ、自らの力で土を動かし野菜が育つ場所を作り上げる。幸せな時間だと思う。どんな草が生えているか、土の香りや湿り気、手触りなど五感をフルに使って畑の様子を感じ取る。それが今後の野菜作りの参考になるのだと思う。

畝を使うのは最低3週間寝かせてから。

 畝を立てたら、なるべく裸のままにしない方が良い。雨が降ったり風が吹いたりすると、表面の土が流れてしまうからだ。最初によけておいた刈り草などでしっかりと被覆しておく。
 すると微生物が少しずつ分解してくれて畝がどんどん豊かになっていく。草が生えたら一本残らず抜くのではなくて刈り取って、そのまま敷いておく。その繰り返しで土を作っていく。

 畝を立ててから野菜を植え付けるまで最低でも3週間は寝かせた方が良い。というのも、畝立ての最中にどうしても刈り草などの有機物が土にすき込まれてしまうからだ。前述の通り、有機物が土の中で分解されるときには熱とガスが出る。これによって、作物が傷んでしまうので必ず時間を空けてから野菜を作り始める。

 夏の暑い時期なら三週間ほどで害がなくなるだろう。まだ春先で寒い時期に立てた畝は3カ月ほど置いた方が良いと思う。それだけ時間を置けば、畝上には草がびっしり生えてくるはずだ。そうなれば間違いなく、未分解の有機物による害はない。

 また、立てたばかりの畝にいきなり野菜の種をまくと、瞬く間に雑草に紛れてしまう。そこで時間を置いて一度雑草を発芽させてしまう。それを刈り払ってから野菜を播けば、ある程度草管理がしやすくなるだろう。(去年立てたばかりの畝にラディッシュの種を播いたら、雑草に紛れて見分けがつかなくなった)

 

加温設備がなくても夏野菜の育苗が出来る 陽だまり育苗とポケット芽だし

 市販の苗を買わずに、自分で種から育てた苗で野菜作りをしたくなるのは家庭菜園家が必ず通る道だろう。実際、種まきから始めた野菜はとても愛情が湧くものだ。

 販売されている苗は年々早売り傾向が強まり、良い苗を手に入れられたとしても、定植適期からはちょっと早い気がする。生産農家や販売側に様々な事情があるのだろうが、購入側としては少し困る。
 当地ではトマトやナスの苗を露地植えするなら、早くても五月下旬になってからが望ましい。だがゴールデンウイークにはちょうど良い苗が販売されてしまう。その時期に植えられないことは無いが、マルチやトンネル、行灯といった防寒対策は欠かせない。また季節外れの低温に当たる心配もあり、やはり寒い時期に無理させたくないのが本音である。

 また、自分で苗が立てられれば市販されていない品種の野菜も作ることができる。販売されている苗なんて、数ある品種の中で極極一部にすぎない。種から育てれば、魅力あるたくさんの野菜を作ることができる。

 というわけで、自家育苗を試みるのだが、特に夏野菜の苗はまだ寒い時期での育苗になるため失敗することが多い。特に問題となるのは温度である。温度が足りずに、発芽しない、もしくは生育が進まないことが多々ある。ビニールハウスがあるなら、温度確保は幾分か容易にはなるが、小規模の家庭菜園や畑ではなかなか用意が出来ないことがある。

 そこで自宅の中で育苗する際に便利な、お金や手間をかけない育苗テクニックを紹介しようと思う。

芽だしはポケットに入れておく「ポケット人肌芽だし」

 数ある野菜の中でトマトやナス、ピーマンは発芽適温が25-35℃とかなり高めだ。まだまだ寒い日が続く三、四月ではなかなかこの温度を確保するのが難しい。特にうちのような、加温設備もビニールハウスもないような環境ではほぼ不可能だ。

 発芽さえうまくできれば、その後の温度管理はそこまでの高温は必要とされない。そこで簡単かつお金のかからない方法を紹介する。この方法はわたしたちが昨年から実践し、ミニトマトやトウガラシなど30℃近い温度を要求する種の発芽を成功させている。

 その方法とは、人の体温を利用して発芽を促す「ポケット芽だし」法だ。「めんどり催芽」や「人肌芽だし」とも呼ばれる。わたしたちは、は農文協の「自家採種コツのコツ」という書籍に紹介されているのを見て、実際にやってみて有用な方法だと実感している。他にも様々な人から紹介されている有名な?方法である。

 人間の体温は常に36℃に保たれていて、高温を必要とする夏野菜の発芽適温にかなり近い。そこで種をポケットに入れておくことで発芽を促進させることが出来る。
 36℃だと温度が高すぎて、発芽率が落ちるだろうが、実際にポケットに手を入れてみれば分かる通り、まず35度を超えることは無い。丁度25-30℃付近に落ち着くはずだ。

 数日で発根してくるので、すぐにポットやセルトレイに播く。すでに発芽は始まっているので通常種をまくよりも圧倒的に早く芽が出てくる。発芽後はそれほど高温にする必要は無いため、寒い地域でも無理なく育苗ができる。

ポケット芽だしのやり方・注意点

 ポケット芽だしに必要な物
・密閉できる小袋・霧吹き・キッチンペーパーやガーゼ

 ポケット芽だしのやり方
①小袋に日付、品種名を書く
②キッチンペーパーを霧吹きで濡らす
③濡らしたペーパーに種をおく
④種を包んで、小袋にしまい密閉する
⑤ポケットで保管する

2022年の ポケット芽だし

 以上だ。とてもかんたんで誰でも、今すぐ実践することが出来る。

 最低でも一日に一回、できれば朝昼晩と袋を開けて、種の様子を確認する。袋を開けることで種に新鮮な空気を吸わせることができる。空気(酸素)は発芽にとても重要な要素だ。我が子だと思えば、確認の手間も惜しくないだろう。

 植物にもよるが、三日から七日ほどで発根してくる。発根を確認したらただちに土に播く。既に発芽寸前のため、二、三日で芽が地上に出てくるはずだ。

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日だまり育苗で厳しい環境に慣れた強い苗にする

 無事発芽したら、今度は日だまり育苗で管理する。

 これは日中は直射日光のあたる場所で地温を確保し、夜間は家の中に入れることで寒さから苗を守る管理方法だ。加温設備を必要としないため、どこでもできる。必要なのは日当たりの良い場所だけだ。

 日だまり育苗の苗は、直射日光、外気や風に当てながら育つので定植後の環境への適応能力が高い苗になる。特に風の有無は大きいと思っている。風が当たり、身体が揺さぶられることでがっちりした苗に育っていくような気がする。

 やり方は簡単で、午前中の9時頃、気温が上がり始めたら苗を外の日のあたる場所に出す。日が落ちてくる午後4時頃から急激に冷えてくるため、家の中に取り込んで夜をしのぐ。雨天や曇天で太陽が出ない日は室内の、できるだけ明るい部屋で管理する。

 育苗全般に言えることだが、水のやりすぎは禁物だ。水やりは午前中の早い時間に済ませ、日中、特に夕方以降はやらないようにする。夜間、水が多いと徒長の原因になるからだ。実際、2020年のミニトマト栽培では水やりの下限が分からず、育苗初期にかなり徒長してしまった。

 日差しの強くない日はしおれない程度に水やりを制限する。ここで水をやり過ぎると徒長するため、しっかり観察して水分量を調節する。代わりに良く晴れる日はたっぷり水やりしよう。

 この育苗方法は自然農法国際研究開発センターのホームページに詳しい説明がある(こちらをクリック)。
 または「これならできる! 自家採種コツのコツ(農文協)」や「無農薬野菜づくりの新鉄則(Gakken)」でも紹介されている。

定植は平均気温16度以上になったら。

 育苗期間は野菜の種類にもよって変わり、大体一ヶ月から二ヶ月である。種まきする日は育苗期間と定植時期から逆算するが、その定植時期は地域ごとの平均気温に合わせる。

 例えば、当地でもナスの苗はゴールデンウイークには市場に出る。一般的には五月初旬がナス科野菜の植え付け時と言われているからだろうが、まだ寒すぎる。特に冷え込んだ日は霜が降るくらいだ。寒さに弱いナス科野菜は一発で大ダメージを受けることになる。

 果菜類の定植目安となるのは平均気温16度を超えたら。このくらい気温が上がってくると、遅霜の心配がなくなるため夏野菜の定植ができる。特に高温を好むナス、ピーマン、ゴーヤなどは平均気温17度を超えるまで待つ方が良い。トマトの植え付けから一週間ほどたってからの植え付けとする。

私たちもポケット芽だしを開始しました

 3/26にわたしたちも今年の夏野菜の種まきをスタートした。もちろんポケットに種を忍ばせるところからだ。トマト、ナス、ピーマンは六月第一週の定植を予定している。
 ほぼ無肥料での育苗となるため、育苗日数は65日ほどを目安にしている。ズッキーニは苗が早く仕上がり、寒さにも若干強いため五月下旬の植え付けで育苗日数は一ヶ月の予定だ。種まきは四月下旬に行う。このころには夜間の気温も大分上がるため、そのままポットに播いても問題ないだろうと思う。

2022年の ポケット芽だし

  順調に発芽して、徒長せずに本葉二枚くらいまで育つまでそわそわしてしまう。じっくり良い苗に育てていきたい。

【自然農】育苗土を畑の土を使って手作りする方法とその理由

畑の土を育苗に使うことにした理由

 そろそろ冬の終わりが見え始め、夏野菜の育苗をする時期になってきた。育苗は主に夏野菜の収穫期間を伸ばすために必須となる栽培技術だ。古くから「苗半作」という言葉がある。これは作物の一生は苗の出来で半分以上決まってしまう、ということを表している。

 苗の出来がその年の収穫を大きく左右するため、育苗にはかなり神経を使うし、様々な技術や工夫を多くの人が生み出してきた。設備や環境、使用する資材、開始する時期によって苗の出来は変わってくる。

 良い苗が豊作につながるなら、より良い苗を作りたいところだ。一般的には有用な資材が使われている培養土や、追肥のために肥料を用意したり、温度や湿度、日照を管理するために資材や機械を導入したりして、良い環境を整える。

 それには結構なお金がかかるもので、規模が大きくなれば数十万、数百万単位の費用が掛かってくる。餅は餅屋、という言葉があるように苗を栽培してくれる苗農家や種苗店もあって、高品質な苗を購入するという方法もある。当然、良い苗はできるがそれに伴う出費も多くなる。

 当面の間、私たちはま自給する分が収穫出来たらいいかな、というスタンスをとっている。安定して収穫が見込めるようになったら、販売も考えていけたらと思っているがまずは自給分からである。

 自給するための畑だし、なるべく費用を最低限に抑えて、良い結果を出したいところだ。そして、私たちが畑をやっていく上で自分の営みの範囲内で循環した栽培をしていきたいという思いがある。
 市販の培養土は色々な所から原料を運んで来て、それがまた全国各地へ運ばれて一部が私たちの元へ届く。一度掘り出された土は二度とその土地へ帰ることはない。こうなると循環する野菜作りからは少し離れてしまうような気がする。

 昨年、無肥料で栽培したミニトマトがなかなかうまく育たなかった(2021年のトマト栽培はこちらの記事にまとまっています)。育苗には市販の培養土を使い順調に苗ができた。しかし、定植後樹の成長がほぼ止まってしまい、収穫はほとんどできなかった。

 野菜を育てる畑の土と、身の周りで手に入る資材を使って育苗土ができれば、環境に負荷をかけない野菜作りになると思って、今年から育苗土作りに挑戦してみることにした。

育苗土を用意する手順

 実際に畑の土を使って育苗土を準備する手順は次のようになる。

①表面の草をよける
②土をとる
③もみがらを土の3~5割加える
④黒いビニール袋に入れて日のあたる場所に放置する

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土を篩にかける
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もみがらを混ぜる

 育苗土には未分解の有機物を入れないように注意する。植物は分解される際にガスを放出する。そのガスで根が傷むため未分解の有機物は土に入れないのが基本だ。
 実際やってみると、思いのほか全て取り除くのが難しい。大き目の篩でざっと大きな草を除けるだけにした。どうしても細かい根っこや葉が入ってしまうがガスが多く出るのはまだ青い状態の草を埋めた時なので、茶色に枯れている草なら多少は入っていても良いだろう。

 もみがらは排水性を高めるために使用する。しっかりと分解の進んだ落ち葉堆肥、刈り草堆肥を代わりに使っても良い。今回はビニールを掛けて半年近く放置したもみがらを使った。
 本来であればもみがらは田んぼに還る有機物なので、いずれは雑草堆肥や落ち葉堆肥を使いたい。中には踏み込み温床に使用して腐植した堆肥を使っている農業者もいる。

 最後に前述の未分解の草やもみがらによる障害を多少なりとも減らせるように、黒いビニール袋に入れて日のあたる場所に放置する。日中の太陽で熱をもらい、少しでも分解を進めておくためだ。
 分解促進および肥料分を少し補うために米のとぎ汁を足した。米ぬかは落ち葉堆肥などの分解スターターとしても利用されることもあるほど、微生物の働きを活発にしてくれる。

本来であれば夏にこの作業をするべき理由

 今回は割と思いつきでさっくりとした調べをしただけで育苗土に畑の土を使ってみた。

 実際準備してみたり、本やネットで情報を探してみて、もっとこうしたらという点や問題点が既に見つかった。

 まず残っている雑草の種が発芽してくる点。この方法だと雑草の種は死んでいないので、育苗している最中にどんどん発芽してくるだろう。根っこが野菜の根に絡むとどんな影響があるのかわからないが、栄養の取り合いや日光を妨げてしまうことも予想される。

 今年は生えてきた雑草は早めに抜いてしまうか、切ってしまうつもりだ。どの程度の手間になるか分からないが、試してみようと思う。雑草対策として、一番簡単なのは温度を上げてしまうこと。たいてい70℃近くまで上げてしまえば雑草の種は死滅する。
 夏場に袋に入れて直射日光にさらしておけば簡単にできる。が、それによって土の中の微生物まで殺してしまうことになってしまうのではないかと思う。

 また実際に作った育苗土をポットに詰めて水をかけてみたところ、水はけが少し悪かった。土ともみ殻の割合が低くて水はけが悪いかもしれない。もう少し有機物の量を増やした方が排水性、通気性ともに良くなるだろう。例えば、落ち葉堆肥や雑草を刈り取って積んでおいた雑草堆肥なんかが良いのかもしれない。

今年の育苗がそろそろスタートする

 野菜作りの世界に飛び込んで、ようやく苗作りの大切さが分かってきた。「苗半作」は昨年の栽培で身に染みるほど感じた。

 さらに自然農で野菜を作るなら、育苗もそれにあった方法をとるべきだと言う事にも三年目にして気づく事が出来た。今までは市販の培養土に頼りきりだったが、野菜たちが育苗を終えた後育っていく場所の土を使う。まだ根拠がないが直観的に上手くいくような気がしている。

 とりあえず今回の育苗土で心配な点は、今のところ二点ある。
 1つ目は排水性。何度か水を通しながらもみ殻の量を調節したが、実際にやってみるまでどうなるかわからない。水はけが悪いと、夜間に徒長し軟弱な苗になる可能性がある。日中の水やりの量を調節する事で多少は対処できると思っている。
 2つ目は雑草。全く熱処理をしていないため二ヶ月に及ぶ育苗期間中に沢山の雑草が生えてくることが予想される。こればかりは地道にコツコツ抜いていくしかない。今年は150個ほどの苗を作ることになるので気長に頑張りたい。植えたあとも雑草と一緒に育っていく事になるため、そのための準備になると考えたい。

 当地ではまもなく最高気温が20度近くになるため、四月頭から夏野菜の育苗を始めようと思っている。