人参から自家採種を始めてみよう
私たちは「循環する野菜作り」を目指して、多くの野菜で自家採種をしている。その中で今回は人参の自家採種について、やり方や注意点を実際の記録も踏まえて紹介していく。
人参は発芽率が低いため失敗しない為に、たくさん種を播きたい作物だ。そのため、意外とたくさん種が必要になる。でも購入した人参の種はとても少なく感じるのはわたしだけだろうか。
それも自家採種をすれば問題なしだ。十分すぎるほど種ができるので安心してたっぷりと播くことができる(本当はたっぷり播かなくても良いくらい上手に発芽させることが大切だけど)。
再三だが、自家採種をするとその畑に合った性質に少しずつ変化し、年々作りやすくなるともいわれている。私自身それを体感した事はまだないのだが、理屈は通っているので検証して行きたい。
人参の採種栽培の流れ
採種栽培と食用栽培
採種栽培は収穫物を食べる食用栽培とは異なり、全く違う栽培ステージまで生育させる必要がある。特に人参などの根菜類は夏播きした株を越冬させ、翌年の夏まで維持しておかないといけないため、畑での占有期間が非常に長くなる。そのことを念頭に置いて、作付をする必要がある。
昨年から今年の夏にかけて行った採種栽培を例にする。
昨年8月10日に種まきをした。寒冷地にあたる当地では若干遅めの種まきだ。この年は雨が多い8月で作業が出来ない日が続き、ようやく種まきできた。雨が多いと言うことは発芽は容易で、特に水やりをする必要も無く発芽した。
その後の収穫までの管理は通常通りと同じだ。草に負けない程度に草取りをする。
母本選抜・植え戻し・越冬
それから約4カ月、120日経った12月中頃に一斉収穫をした。その時点で育っている人参をすべて抜き、母本(種をつける株)選抜をする為だ。自家採種をするには品種が交配種ではなく、固定種である必要がある。固定種だと、同じ品種の中でも生育具合や形、味などにある程度の多様性(バラつき)があるため、自分の好みに合わせて母本を選ぶ。
こうすることで次第に自分の畑で育てやすく、味も良い自分だけの品種に変わっていく。これこそ自家採種の最大の利点だ。
選んだ母本は葉を切り落とし、すぐに採種用の場所に植え付ける。なるべく同じ畝、同じ畑の中に植え付ける。植えた母本の上に5cm程度土を盛って寒さに備える。浅かったり、土がながれるなどして、凍みてしまうと種採りできないため注意が必要だ。
母本の数は最低でも15~20本は必要だ。できればそれ以上、50株ほど用意すると多様性を保ったまま自家採種できる。人参は自家不合和性(一つの個体の花で受粉しないこと)を持つため、ある程度の本数を用意しないと年々種の生命力が落ちてしまうそうだ。とはいえ、50本も用意するのはなかなか難しい。少なくとも15~20本は用意したい。実際は15~20本は小規模で自家採種する場合はかなり多い。私たちも今年は6本の母本で行った。
翌年の4月ごろになると、植え付けた母本から新芽が出てくる。この芽が伸びて花が咲くことになる。気温が上がるにつれて、ぐんぐん背丈が伸びる。大体1mほどまで茎が伸びるころには花芽が始める。
抽苔~開花期
人参の開花は主枝の頂花から始まり、主枝の脇から伸びた子枝、その脇から伸びた孫枝、ひ孫枝と続く。頂花は8日間開花し、その後の花は6~8日ほど開花する。そのため開花期間は1ヶ月にも及ぶ。
種の発芽率は主枝、子枝が良く、孫枝から先は品質が落ちる。そのため、頂花の開花に合わせて整枝を行う。主枝と子枝合わせて6本残し、他は全て根元から切り落とす。こうすることで、より充実した種を採ることができる。
刈り取り・乾燥・調整
人参の種は開花後40~50日で完熟する。目安は種全体がきつね色に変化する。このとき、日数が経ってないにもかかわらずきつね色になった場合は未熟のままの可能性があるため、日数を確認する。また、種がきつね色に変わり、枝が緑色の物を選ぶと確実だ。
雨が降った直後は種が湿り過ぎているため、晴れが続いてから刈り取る。刈り取った花傘は2~3日陰干しをしてから脱穀する。篩にこすりつけるようにすると、簡単に種が花傘から外れてくれる。
種は風選してごみを取り除くが、自分で使用するだけならやらなくても良いと思う。脱穀した後、天日干しをして完全に乾燥したら完成だ。
自家採種の注意点
交雑を回避する
人参の種採りは、秋に母本を植えておけば、花が咲く時期までやることがない。基本放置で簡単に種を採ることができる。
注意しなければならないのが交雑だ。人参は他家受精なため、近くに別の人参があると交雑し、品種を維持出来なくなってしまう。
複数品種の人参を植える場合は必ず、種採り品種以外のものを開花までに抜き取っておくことに注意する。基本的に1圃場1品種までの採種にする。
また、ノラニンジンという植物は普通の人参と交雑する。ノラニンジンは葉っぱや花が人参と同じだが、根っこは食べられない。交雑してしまうと食用にならない人参になってしまう。
私たちの圃場ではノラニンジンを見たことは無いが、開花前になったらくまなく圃場を歩いてノラニンジンがないか確認することが大切だ。根元から切り取ってしまえば交雑の心配はなくなる。
品種によって休眠期間がある
無事採種した種、すぐに播きたくなる。大体頂花の種が登熟するのが7月20日頃で、丁度人参の種まき時期となる。せっかくならその年に自家採種した種から栽培したいのだが、かなりスケジュールが厳しい。
しかも、人参の種は採種後1~3か月間休眠(つまり芽が出ない)する品種がある。自分が種採りした品種が休眠するか、ネットなどで調べても出てこないことが多い。誰も自家採種した事無い品種が大半だからだろう。
もし、どうしても知りたい場合はその品種を開発した種苗会社に問い合わせれば分かるかも知れない。
私たちが今年自家採種した自然農法国際研究開発センターの「筑摩野五寸」という人参は若干の休眠期間があるように思われる。
今年の一番最初に登熟した種を10日ほど追熟させてから播いてみたところ、発芽はした。だが、蒔いた種の割に芽が少ない様に感じた。覆土後しっかり鎮圧し、上から不織布を掛けておいたので水分管理はしっかりできていたはずだ。
今年採った種は来年用に保管して置いて、今年栽培した株で再来年用の種を採種する、というのを毎年繰り返した方が発芽率の良い種を毎年使えるかもしれない。
その場合、選抜や畑へ適応した結果が分かるのが遅くなるだろう。
適切な保管方法で管理する
人参の種は短命で通常1~2年でかなり発芽率が落ちる。アブラナ科の種は5年は持つと言うし、ビーツなんかは常温放置で3年は発芽率が落ちないようだから、人参はそれと比べると短命だ。
そこで人参は特に保管に気を遣った方が良い。一般的に種の保管は水分がなるべく含まれないように乾燥させ、密封できる容器に入れて、冷暗所で行う。
人参の場合は種を天日干しした後、ビンに乾燥材とともに入れて置くと安心だ。しっかりとふたを閉め、冷蔵庫の野菜室で保管する。こうすれば二年間は十分使える状態を保てる。
まとめて二年分採種し、しっかりと保管して置けば手間を半分にして自家採種した種を使うことができる。