今回は野菜作りには絶対に欠かすことのできない、「種」についてのお話です。
野菜にはF1と固定種があります
同じ種類の野菜でも、さまざまな品種がありますよね。ミニトマトなら有名どころの「アイコ」、「千果」など、ほかにもたくさんの名前がついたミニトマトが売っています。それぞれ品種の特徴を示した名前から、栽培適期を記したもの、ギャグのような面白い名前がついたものまであって、見ていると面白いです。
これら数多くの品種は多くのものが種苗会社が長年の研究の末に開発したものになります。種の利用者やその収穫物を利用する人(生産者の農家、消費者の食品業界、一般消費者、中卸業者など)の要求に応える画期的なものが多いです。
その中でF1種と呼ばれる品種と、固定種と呼ばれる品種があります。野菜の種袋の品種名のF1の横にF1の表記や○○交配と書かれているものがF1(交配種)です。カネコ種苗の種なら、カネコ交配、トキタ種苗ならダイヤ交配などですね。逆に○○育成と書かれているものや野菜そのものの名前で書かれているもの(「ミニトマト」や「ホウレンソウ」など)は固定種であることが多いです。わざわざ固定種と書かれているものは少ないです。
野菜も植物なので生き物です(当たり前)
なんだか当たり前すぎて、忘れてしまっている人もいるかもしれませんが、野菜も生き物です。植物という大きなくくりの中に入っていくる野菜ですが、基本的に次世代に子孫を残すために種をつけます。
人間も一人ひとりまったく同じ遺伝子を持っていることはありません(一卵性双生児はかなり似た遺伝子を持っていますが、それでもまったく同一ではありません)。それは植物も同じで、種ひとつひとつ微妙に遺伝子が違います。違う遺伝子を持つもの同士がまた実を結び、次世代はまたすこーしだけ違う遺伝子を持つことになります。遺伝子というのは生命の設計図ですから、違う性質を持ったものが生まれてきます。
さらに外的環境に適応したり、外敵から身を守るためだったり、突然変異などでも遺伝子はどんどん変化、進化していきます。これが何億年と続いた結果、現在の多様な生物が存在しています。
今私たちが普段食べている野菜は、それぞれの原種とは程遠いほど姿を変えてきています。人間が食べやすいように、栽培しやすいように少しずつ進化させてきたんです。とうもろこしなんかはかなり変化が大きいです。
本来であれば、育てたものと同じものをまた作ろうと思ったら、種を採って、また播けばいいわけです。しかし、畑に行くとそんなことをしている人はほとんどいません。みんな種はお店で買います。なぜか。それはF1(交配種)について知ることで少し理解できます。
F1種の登場! 新時代の品種改良技術
もともと野菜の品種改良は、長い時間をかけて少しずつ望む性質をもった品種になるまで繰り返し繰り返し選抜育種を行うものでした。
この野菜の品種開発はF1の登場によって大きく変わりました。
F1というのは別系統の品種を掛け合わせたときにできる雑種の一代目のことです。このF1種は雑種強勢という現象によって、親の持つ形質よりも優れた性質を持ち、さらに掛け合わせの特性上、お互いの親の優勢形質を両方併せ持ちます。これによって、F1種は狙った性質(耐病性や食味、耐寒性、耐暑性など)を持った品種を作り出すことができます。しかもその性質がすべての種で均一になります。
F1種は従来までの品種(固定種と呼びます)に比べ、優れた性質を持っていることから、農業界で広く用いられるようになりました。同じタイミングで播いた種はほぼ同じように育つため、大量生産大量消費にうってつけの品種になりました。
いいことばかりのF1種ですが、デメリットももちろんあります。F1は雑種の一代目しか、意図した性質を持ちません。つまりF1の子供(F2)は性質がばらけます(メンデルの第二法則)。なので、農家は毎年種を買わないと同じ品種を作ることはできません。また、異常気象や珍しい病害などで一網打尽にだめになってしまう可能性もあります。性質がみんな同じなのだから、だめなときはみんなだめになります。
固定種 -昔ながらの品種
固定種はF1種が登場する前からあった、昔ながらの品種です。
固定種はほしい性質をもった株から採種を続け、おおよその性質が固定された品種です。病気に強かった株同士を交配させることを繰り返せば、少しずつ種全体がその病気に強い一群になっていきます。
固定種はF1ではなく、さまざまな世代が入り混じり、遺伝的に多様性を持っています。なので、同じ固定種の種でも少しずつ異なる性質をもっています。甘みが強かったり、生育が少し早かったり、同じ品種内でも多様性が生まれます。
これによって、できる野菜は不揃いになりやすいです。形がばらけていたり、大きさがまちまちだと市場では評価されず、価格が安くなります。なので、大規模栽培にはあまり向かない品種になります。
これでは固定種のいいところがないように思われますが、そんなことはありません。
まず、固定種は次世代の種をまた使えます。第一世代ではないので、播いた種から育った種はまた大体同じ性質を持ちます(別品種が交配時に近くにあると交雑が起こり、性質がばらけます)。なので、種を買わなくても、自分で増やすことができます。
しかも、種を採ることを繰り返すことで、野菜は少しずつ周りの環境に適応し、作りやすくなります。野菜自身が進化していくわけですね。これに加えて、おいしい実ができた株、病気にならなかった株から種採りをすれば、狙った性質を持った自分のオリジナル品種を作り出すこともできます。
私たちは種採りをしたい!
ここまでF1種と固定種について、長々と書いてきましたが、一番伝えたいのは私たちが種採りをしたいということです。
野菜を自分たちの手で作りたいからはじめた畑。できることなら、種を播いて、種を採って、その循環を組み込みたい。それが自然だと思うんです。「自分で蒔いた種は、自分で刈り取る」という有名な言葉があります。自分のしたことの責任は自分でとる、という意味です。これを少し変えて、「自分で蒔く種は、自分で採る」。これを私たちの柱としたいと思います。
畑での出来事に、より一層深く関われるという点と、もうひとつ、種がその土地に適応していくということも種採りをしたい理由のひとつです。
F1種を使えば、日本全国何なら世界中どこでも同じ野菜を作ることができます。これって、よくよく考えたら、ちょっと怖いことではないですか? 均一化が進み、個性がなくなる。多様性がなくなると進化が無くなり、衰退するばかりになってしまうのではないでしょうか。
片や、種採りをすれば、遺伝子は少しずつ変化して、その土地だけのオリジナルの野菜になっていきます。それをたくさんの人が行えば、とても多様性に満ちた世界になっていくと思います。その土地にあったものが育つ。こっちのほうが自然で、いい感じがしませんか?
○○さんのミニトマト、△△さんのナス、□□さんのたまねぎといった感じで、作っているその人ごとに野菜が区別できるようになったら面白そうだなと思うんです。
早速、私たちは今年からミニトマトやスナップエンドウ、オクラなどいくつかの野菜で自家採種に挑戦しています。その様子を順次ご紹介していきます。
2020年ミニトマトの自家採種-発芽率は上々
オクラも自家採種をしました
信州地大根の収穫。種採りにも挑戦。
長い文章を読んでいただきありがとうございました。もっとわかりやすく簡潔にまとめられるようにがんばります。