【自然農】8月に実際に行った作業とその考察【寒冷地】

お盆を過ぎたら一気に秋になった

 「暑さも寒さもお盆まで」という言葉通り、ここ長野県ではお盆を過ぎてから季節がすっかり秋になった。なかなか暦通りにならない昨今の気候だが、今年は割と素直な天気だ。
 関東や関西、九州では残暑とも言えない強烈な暑さが続き、東北北部を中心に大雨が続いていたが、私たちの地域では穏やかな1ヶ月だった。前半こそ、雨が少なかったがお盆を過ぎるにつれ、雨が適度に降った。気温もすっかり落ち着き、30℃を超える日は数えるくらいだった。
 これを書いている8月下旬は朝晩の冷え込みが強くなり、寒く感じる日も増えた。雨の日は最高気温も25度に届かないなど、草も勢いも落ち着き野良仕事がはかどる天気だ。220823 8月の畑の様子

 気候は野良仕事向きだが、畑での作業も落ち着いてしまい、時間に追われる事無くゆったりとしたスケジュールで作業できた。雨が少なかったのもあり、種まきも良く進んだ。とはいえ、3年目にしてここでの種まき時期を掴んできたこともあり、良い時期に秋冬野菜を植えることが出来た。

アブラナ科を中心に秋冬野菜を播く

 7月は成長が遅く、比較的虫に食われにくい人参、ビーツの種まきを先んじて行った。8月は特に虫に食われやすく、無農薬では栽培が難しい大根、小松菜などのアブラナ科野菜の種まきをした。8月の終わりには霜に当ててから収穫するために小松菜やルッコラ、ほうれん草などの耐寒性が高いものを多く播いた。

 なるべく長く収穫でき、間引き菜も楽しむために同じ野菜を2,3回に分けて、筋蒔きメインで種まきした。栽培品目は大根(長形、紅心、ミニ)、かぶ、ルタバガ、小松菜、高菜、ルッコラ、青梗菜、春菊、ほうれん草とたくさんだ。これらは基本的に密植気味に混植栽培し、同じ畝に植えることでコンパニオンプランツ的な共生を狙った。

 大根は一般的な長い物を20m分。おでんにしたり、乾燥して長期保存し、冬場の自給のために多めに栽培した。種は一昨年自家採種した信州地大根を播いた。同時期に霜に当てると甘みが増す、珍しいルタバガという野菜も播いた。他の葉物やカブ、紅心大根を比べて栽培期間が長いため、8月17日に播種した。
 すでに大根は本葉5枚ほどとなり、間引き菜として少しずつ食べている。大根の葉茎は栄養満点で美味しいのだが、市場には出回らないため自家栽培するとたくさん食べられる。

 その後8月いっぱいまで残りのカブや小松菜などを播いた。カブや紅心大根、はつか大根は霜にあてると日持ちしないため、早めに。小松菜、ルッコラ、ほうれん草などはむしろ霜にあてると食味が向上するため、なるべく遅くに播いた。気温が下がってきたと言えど、まだ虫の活動は活発なため、葉物は遅めに播いた方が虫食いが減るだろう。

220822 草を真ん中に寄せて筋を出す
畝の中央に草を寄せる
220904 8月22日播きのかぶ
8月22日播種のかぶと人参

 秋は草の勢いもかなり落ち着いて来る。7月播きのビーツ、人参はまだ夏草が発芽してきていたが、8月中旬にもなるとハコベなどの冬草が目立ってくる。成長が遅く、広葉の草が多いので草整理も簡単だ。今のところほとんど草取りはしていないため、9月に入ったらぼちぼち草整理をして行く。

夏野菜のお手入れ

 頭の中は秋冬野菜でいっぱいだが、畑の中は夏野菜だらけだ。これから長ければ霜が降りる10月下旬まで約2カ月間収穫を続けられる。そのため、草刈りばかりで整理の追いついていない夏野菜のお手入れを行った。

 基本的に真夏はナス、ピーマン、トマト、オクラなどは放任で脇芽欠きや摘葉はほとんどしていなかった。私たちが今年から実践している垂直縛り栽培は脇芽を欠かないこともり、つい放置してしまっていた。

 だが、気温が下がり夏野菜も疲れてくるこの時期になったら、ある程度の整枝と摘葉をして株を元気に保つことが収穫を長く続ける秘訣だろう。

 完全に放任していたピーマンは枝が増えすぎて、実の太りが悪くなっていたため、数日に分けて脇芽を減らし、いびつな果実を落とし、下向きになり役目を終えた下葉を欠いた。こうすることで残った枝や果実に栄養を回し、養分を効率よく使ってもらう。

鉄タンニンの散布

 先日ブログで紹介した鉄タンニン。効果を実感し始めているので今回はほとんどの野菜に散布している。(【鉄資材】鉄タンニンを畑に使ってみた【土壌改良・生育促進】)

 ピーマンには全ての株に散布した。二倍に希釈した液を一株1Lほど散布しただけだが、驚くほど食味が良くなった。これまでは甘みが少なく、青臭さが強く感じられていた。それはそれでピーマンらしい濃厚な味だと思っていた。しかし、鉄タンニンを散布してから3日後くらいに収穫したピーマンは明らかに味が変わっていた。

 まず甘味が出た。そして、ピーマンの香りはそのままに青臭さが全く感じられなくなっていた。実は今まで現代農業などで書かれていた食味向上の声には疑問を持っていたのだが、いざ自分で実感してしまうと認めざるを得ない。ここまで美味しくなるとは思っていなかった。

 やはり、えぐみや臭みが消えて甘みが増すのは本当のようだ。今回気になっているのはビーツの味がどのくらい変わるのかだ。ビーツは生で食べると独特の土臭さがあり、それが良いと言う人もいるのだが、鉄タンニンでこの土臭さが軽減され、甘みが増すとしたらビーツを食べるのが楽しみになるだろう。

 鉄タンニンの良さは十分実証できたため、今作ではほとんどすべての野菜に播いている。コストもほぼかからないに等しいため、経済的な負担はない。無施肥、無肥料での栽培を後押ししてくれる資材になることを期待している。

 散布は播種後とそれから1か月後の二回を予定している。基本的には回数はいらないようだ。二回散布すれば十分だろう。

ビーツの垂直縛り栽培

 鉄タンニンと同じくらい、無肥料栽培下で効果を期待しているのが道法スタイルの垂直縛り栽培だ。

 夏の実物野菜ではどの野菜でも分かるくらいの差が表れた。ピーマンはつやがよくなり、トマトでは割れが減り、実付きも良かった。ナスに関しては生育は良かったものの、丸ナスとの相性は悪かったが。

220828 垂直縛りのトマト
垂直縛りのミニトマト

 秋冬の根菜や葉物でも垂直栽培は同様に有効な栽培法だと、指南書には書かれている。そこで一部の野菜で引き続き実験してみることにする。
 根菜や葉物は栽培数が多く、一株一株縛っていくのは労力が掛かり過ぎる。そこで支柱を立てて、二本の紐で挟み込むようにして垂直に仕立てる方法が紹介されている。

 ビーツで半分ほど垂直栽培にしてみた。仕立て方は支柱に二本の紐を結んでいくのではなく、一本の紐ですべての株を囲むようにした。結び目を長さ調節可能な結び方にし、緩んだり、生長につれてきつくなったときに調節できるようにした。


 結び方は宮崎県のキュウリ農家 ゆたか農園さんのホームぺージを参考にさせて頂いた。(→ひもの結び方がめっちゃ簡単で便利!!/ゆたか農園)
 この結び方が意外とよくて楽に沢山の株を垂直に仕立てられた。紐がたるんでくるので支柱の間に、ひもの支えとなるように杭を打っておいた。
 この方法で葉物や根菜の垂直縛り栽培を実践して行く。

秋冬野菜がしっかり育ってくれるように。

 秋は暑さも落ち着き、草の伸びを穏やかになる。それに甘えず、野菜が気持ち良く成長できるようにこまめな管理をしたい。特に背丈が低い野菜が多いので、草に埋もれない様にすることを心がける。

 まだまだ夏の名残が感じられる9月。季節を感じながら畑と、土と向き合いたい。

【鉄資材】鉄タンニンを畑に使ってみた【土壌改良・生育促進】

鉄タンニン、タンニン鉄とは

  鉄タンニンという言葉を聞いたことがあるだろうか。私の愛読書、「現代農業」で三回も特集が組まれ、その実績から全国で実践者が増えている。京都大学の野中鉄矢先生が一般社団法人「鉄ミネラル」(→鉄ミネラルのホームページはこちら)という団体を設立し、研究や活用を勧めている。

 私たちは無施肥、無農薬の循環した野菜作りを目指している。基本的に畑には種以外持ち込まないいわゆる「自然農法」で栽培をしている。それは外部資材に頼らずとも、食べ物を自給し、環境負荷を極限まで減らした栽培法こそ持続可能な食糧生産だと考えているからだ。
 その観点から言うと、鉄タンニンという資材を使うのはポリシーに反するのか。実は鉄タンニンは広葉樹の葉っぱ(幅広い葉っぱ)、わかりやすいのは緑茶葉に含まれるタンニンと鉄(どこにでもある)が反応してできる。つまり、身の回りで完全に自給することができる。
 鉄タンニンは自然界で鉄の循環を担っている物質だと言われている。山の鉄分が広葉樹のタンニンと結合し、鉄タンニンになる。それが雨に溶け、川から海へ流れ込む。こうしてミネラルが循環し、森と海は豊かになっていく。人為的に鉄タンニンをまくことは、森と海の循環に畑を組み込むことを意味する。私たちの循環する野菜作りに一歩近づくのではないか。

 私たちは鉄タンニンを栽培に活用していこうと思っている。今回はその鉄タンニンとは何か、どんな効果があるのか、なぜ効果があるのか、自分の圃場での実践例を紹介しようと思う。

 まず、鉄タンニンとは茶葉(落ち葉)と水、鉄があれば簡単に作ることができる。この三つを一つの容器に入れて置けば、数日で水が真っ黒に変化する。すると鉄タンニンの完成だ。これは葉に含まれるタンニン(渋みの素、ポリフェノールの一種)と鉄がくっついたものだ。

220828 鉄タンニンの液
鉄タンニン水

 鉄は酸素があると酸化鉄となり、水に溶けない。そのため、自然界で循環しづらいミネラルとして知られている。水に溶けないので植物も利用しにくい。しかしタンニンと結びつくと水との親和性が生まれ、植物にも吸収されやすくなる。

 この鉄タンニンを畑に散布すると、野菜が健康に、美味しく育つと言われている。全国各地で農家が実践し、目覚ましい成果を上げていることから注目を集めている。

鉄タンニンの効果

 鉄タンニンを野菜に散布すると、様々な効果がある。

 まず食味の向上だ。葉物類、例えばほうれん草や小松菜は収穫2週間前に散布すると、エグミがなくなり生でも美味しく食べられるようになると言う。野菜本来の甘味や香りも出る。さらにツヤやテリも出て見た目も綺麗になる。

 次に生育促進効果も期待できる。鉄タンニンを定植時に散布すると対照区と比べ、初期生育が悪いがすぐに追いつく。そして葉色が濃くなり、大株に育つ。根を掘ると、根張りも良くなるようだ。根が発達するため、地上部も大きく育つのだろう。

 「現代農業」では2019年10月号、2020年1月号、2020年10月号で鉄タンニンの特集が組まれ、全国各地の様々な事例が紹介されている。いかに一部の概要を列記する。

・きゅうりの側枝が増え、収量が三割増えた(茨城県・八千代町)
・火山灰土の高原圃場で糖度17度のスイカ(兵庫県)
スイカの他にトウモロコシ・イチゴ・ケール・ネギなどに施用。効果と変化を検証中
・葉物野菜のアミノ酸含有量が増え、旨味甘味がアップ(埼玉県)

 いずれも良い成果を上げているようだ。

鉄タンニンをまくと何が起こるのか

 なぜ鉄タンニンをまくと野菜の生育が良くなり、食味も向上するのか。

 これはまだ確実な科学的根拠があるわけではないようだ。鉄タンニンを用いた野菜作りを推進している京都大学の野中鉄矢教授が「現代農業」や自身の一般社団法人「鉄ミネラル」などで発表している仮説がある。

 まず、鉄は重要なミネラルであるにもかかわらず、十分な施肥がされておらず多くの圃場で欠乏している。そこで植物が吸収しやすいタンニンと結合した鉄を散布することで、植物が鉄を十分使えるようになるから野菜本来の力を取り戻すと言うものだ。

 鉄は植物が光合成をするのに欠かせない葉緑素の構成元素のひとつだ。葉緑素を十分作り、光合成が活発になることで地上部の生育がよくなり、エネルギーも十分あるため、糖分を蓄えることができるようになる。

 また植物が吸い上げた硝酸体窒素(植物が吸収できる形の窒素)をアンモニア(植物が利用する形の窒素)に変換する酵素(生物の体内で製造を担う物質)にも鉄が必要だ。このため、葉物野菜でアミノ酸含有量が増加するといったことが起こる。

 さらにタンニン鉄をまくと畑の土が団粒化するようだ。現代農業2020年10月号にはタンニン鉄の施用の有無で土の微生物量を比べると、施用ありの方が多かったという記述がある。特に糸状菌を食べる放線菌の数が増えた。
 これから何が言えるのか。放線菌は土の有機物を盛んに食べ、次の微生物のエサになる。また病原菌の多い糸状菌も食べる。つまり、鉄タンニンをまくと微生物のバランスが整い、数が増えることで良い土になる。それにつれて土も団粒化していく。

 この二つの相乗効果で野菜にとって、良い影響をもたらしているのだろう。

百姓農園での実践例、比較検証

 明確なメカニズムがわかっていなくとも、これだけ手軽に自分で用意できる資材で効果があるのなら試してみようということで様々な野菜で実験してみた。

 タンニン鉄の散布量はあまり厳密に決まっていないようだ。過剰になり過ぎる心配は常識の範囲内で使えば、気にしなくていいらしい。さすがにトマト1株に100Lとか、毎日水やり代わりにやり続けるなどしなければ良い。

 実践者の事例から見るに、鉄タンニン水を最大10倍程度に希釈して1株1L程度(トマト、ナスなどの果菜類の場合)を定植時、収穫開始時、それから1か月後の計三回散布するだけで効果があるらしい。葉物野菜の場合、収穫の2週間前にさーっと掛けるだけで良いそうだ。

 今回は40Lの水に対して、100均の鋳物スキレット、緑茶パック10個を投入して鉄タンニンを作った。夏場は温かいため、5日もあれば水が真っ黒になる。液が黒くなれば完成とした。直ぐに使わない場合もお茶と鉄は入れっぱなしでOKだ。
 お茶は有機物なため、1週間もすると腐敗集がしてくるが問題なく使用できる。むしろ腐敗臭がして来れば鉄タンニンは完成したと思ってよい。

 散布量は原液、もしくは2倍希釈液を1㎡あたり1Lにした。実際に散布すると一瞬表面に水が溜まり、すぐに引けていく量だ。水やり時の量よりも少ないと思う。

定植から3カ月経過した生育の悪いトマト、ピーマン、ズッキーニ

 まずは今年の春に植えたトマトやピーマン、ズッキーニといった果菜類で試してみた。例年通り、数株は生育の悪い物があり、8月半ばの時点で他のものと比べて半分くらいしか育っていない株にかけてみた。

 写真ではわかりづらいのだが、散布して1週間ほどすると、生長点から少し濃い色をした新芽が出ていた。それまで成長が緩慢だった株がそれなりのスピードで成長し始めた。

 特にズッキーニはわかりやすく、5月の終わりごろに播種し、あまり育っていなかった株が散布してから旺盛に生育を開始した。実も付き始めている。

 ピーマンも同様、生育が悪いエリアの株のうち数株にピンポイントで散布したところ、気づけば周りよりも一回り大きく成長していた。着果も良好で順調に育っている。
 トマトはいまいちわからなかったが、若干散布した株の葉色が濃くなったように思える。

8月播きのズッキーニ

 ズッキーニの3回目の種まきを8月1日に行った。品種はバンビーノという短形の固定種ズッキーニだ。この圃場では比較的旺盛に生育してくれた品種だ。

 5株中2株に発芽から数日後に1Lずつ散布した。その後8月27日になり、花芽がついたため二回目の散布を行った。

 こちらは鉄タンニンの効果がてきめんだった。写真を見れば一目瞭然だろう。散布した2株だけが他の3株よりも一回り大きく、花芽も早く着いた。鉄タンニンは散布直後は生育を抑制することがあるそうだが、それは見られず最初から良く成長した。

 これから1週間ほどすれば収穫が始まるため、食味の違いも観察してみたい。

人参とビーツでの比較検証

 7月21日播種のビーツ、7月26日播種の人参はそれぞれ畝の半分ずつ分けて、鉄タンニンの有無で比較している。

 こちらは散布の有無で生育の違いが見てわかる。
 ビーツは播種から2週間後くらいに散布し、鉄タンニンを散布した左側の方が生育が良い。葉の密度が違うのが分かるだろう。ビーツは既に肥大が始まっているが、散布した方が大きい株が多い気がしている。

220823 bi-tu
左:鉄タンニン有り 右:鉄タンニン無し


 人参は発芽直後に散布したが、散布区の方が若干生育が遅れている。これは雑誌の記事でもあった通り、生育が遅れるということだろう。

220823 人参 タンニン鉄あり
鉄タンニン有り 若干小さい
220823 人参 タンニン鉄なし
鉄タンニン無し

 特にビーツは、癖やエグミが強い野菜なので鉄タンニンによる食味向上が分かりやすそうだ。

どんな変化が現れるか、楽しみだ

 他にも秋冬野菜にはほとんど鉄タンニンを散布した。比較になっていないものもあるが、どのくらい変化があるのか楽しみだ。
 もし、病気や虫害が多発するようなら使用を中止するなど考えていこうと思う。鉄タンニンは自然のなかで鉄の循環を担っているようなので、むしろ良い影響の方が多いと思っている。

 現代農業ではもっと詳しく紹介されているため、該当の号をチェックしてみて欲しい。そして、簡単に鉄タンニンは作れるため、秋冬野菜にかけて試してみて欲しい。

【自家採種】人参の自家採種のやり方【筑摩野人参で実践】

人参から自家採種を始めてみよう

 私たちは「循環する野菜作り」を目指して、多くの野菜で自家採種をしている。その中で今回は人参の自家採種について、やり方や注意点を実際の記録も踏まえて紹介していく。

 人参は発芽率が低いため失敗しない為に、たくさん種を播きたい作物だ。そのため、意外とたくさん種が必要になる。でも購入した人参の種はとても少なく感じるのはわたしだけだろうか。

 それも自家採種をすれば問題なしだ。十分すぎるほど種ができるので安心してたっぷりと播くことができる(本当はたっぷり播かなくても良いくらい上手に発芽させることが大切だけど)。

 再三だが、自家採種をするとその畑に合った性質に少しずつ変化し、年々作りやすくなるともいわれている。私自身それを体感した事はまだないのだが、理屈は通っているので検証して行きたい。

人参の採種栽培の流れ

採種栽培と食用栽培

 採種栽培は収穫物を食べる食用栽培とは異なり、全く違う栽培ステージまで生育させる必要がある。特に人参などの根菜類は夏播きした株を越冬させ、翌年の夏まで維持しておかないといけないため、畑での占有期間が非常に長くなる。そのことを念頭に置いて、作付をする必要がある。

 昨年から今年の夏にかけて行った採種栽培を例にする。
 昨年8月10日に種まきをした。寒冷地にあたる当地では若干遅めの種まきだ。この年は雨が多い8月で作業が出来ない日が続き、ようやく種まきできた。雨が多いと言うことは発芽は容易で、特に水やりをする必要も無く発芽した。

 その後の収穫までの管理は通常通りと同じだ。草に負けない程度に草取りをする。

母本選抜・植え戻し・越冬

 それから約4カ月、120日経った12月中頃に一斉収穫をした。その時点で育っている人参をすべて抜き、母本(種をつける株)選抜をする為だ。自家採種をするには品種が交配種ではなく、固定種である必要がある。固定種だと、同じ品種の中でも生育具合や形、味などにある程度の多様性(バラつき)があるため、自分の好みに合わせて母本を選ぶ。
 こうすることで次第に自分の畑で育てやすく、味も良い自分だけの品種に変わっていく。これこそ自家採種の最大の利点だ。

 選んだ母本は葉を切り落とし、すぐに採種用の場所に植え付ける。なるべく同じ畝、同じ畑の中に植え付ける。植えた母本の上に5cm程度土を盛って寒さに備える。浅かったり、土がながれるなどして、凍みてしまうと種採りできないため注意が必要だ。

211210 選別中の人参
並べて選別する
211210 植え替え中の人参
母本を植えなおす

 母本の数は最低でも15~20本は必要だ。できればそれ以上、50株ほど用意すると多様性を保ったまま自家採種できる。人参は自家不合和性(一つの個体の花で受粉しないこと)を持つため、ある程度の本数を用意しないと年々種の生命力が落ちてしまうそうだ。とはいえ、50本も用意するのはなかなか難しい。少なくとも15~20本は用意したい。実際は15~20本は小規模で自家採種する場合はかなり多い。私たちも今年は6本の母本で行った。

 翌年の4月ごろになると、植え付けた母本から新芽が出てくる。この芽が伸びて花が咲くことになる。気温が上がるにつれて、ぐんぐん背丈が伸びる。大体1mほどまで茎が伸びるころには花芽が始める。

抽苔~開花期

 人参の開花は主枝の頂花から始まり、主枝の脇から伸びた子枝、その脇から伸びた孫枝、ひ孫枝と続く。頂花は8日間開花し、その後の花は6~8日ほど開花する。そのため開花期間は1ヶ月にも及ぶ。

220623 開花した人参 tyouka
6月22日 頂花が開花
220623 開花した人参
たくさん開花してきた

 種の発芽率は主枝、子枝が良く、孫枝から先は品質が落ちる。そのため、頂花の開花に合わせて整枝を行う。主枝と子枝合わせて6本残し、他は全て根元から切り落とす。こうすることで、より充実した種を採ることができる。

刈り取り・乾燥・調整

 人参の種は開花後40~50日で完熟する。目安は種全体がきつね色に変化する。このとき、日数が経ってないにもかかわらずきつね色になった場合は未熟のままの可能性があるため、日数を確認する。また、種がきつね色に変わり、枝が緑色の物を選ぶと確実だ。

 雨が降った直後は種が湿り過ぎているため、晴れが続いてから刈り取る。刈り取った花傘は2~3日陰干しをしてから脱穀する。篩にこすりつけるようにすると、簡単に種が花傘から外れてくれる。

 種は風選してごみを取り除くが、自分で使用するだけならやらなくても良いと思う。脱穀した後、天日干しをして完全に乾燥したら完成だ。

自家採種の注意点

交雑を回避する

 人参の種採りは、秋に母本を植えておけば、花が咲く時期までやることがない。基本放置で簡単に種を採ることができる。

 注意しなければならないのが交雑だ。人参は他家受精なため、近くに別の人参があると交雑し、品種を維持出来なくなってしまう。
 複数品種の人参を植える場合は必ず、種採り品種以外のものを開花までに抜き取っておくことに注意する。基本的に1圃場1品種までの採種にする。

 また、ノラニンジンという植物は普通の人参と交雑する。ノラニンジンは葉っぱや花が人参と同じだが、根っこは食べられない。交雑してしまうと食用にならない人参になってしまう。
  私たちの圃場ではノラニンジンを見たことは無いが、開花前になったらくまなく圃場を歩いてノラニンジンがないか確認することが大切だ。根元から切り取ってしまえば交雑の心配はなくなる。

品種によって休眠期間がある

 無事採種した種、すぐに播きたくなる。大体頂花の種が登熟するのが7月20日頃で、丁度人参の種まき時期となる。せっかくならその年に自家採種した種から栽培したいのだが、かなりスケジュールが厳しい。

 しかも、人参の種は採種後1~3か月間休眠(つまり芽が出ない)する品種がある。自分が種採りした品種が休眠するか、ネットなどで調べても出てこないことが多い。誰も自家採種した事無い品種が大半だからだろう。

 もし、どうしても知りたい場合はその品種を開発した種苗会社に問い合わせれば分かるかも知れない。

 私たちが今年自家採種した自然農法国際研究開発センターの「筑摩野五寸」という人参は若干の休眠期間があるように思われる。
 今年の一番最初に登熟した種を10日ほど追熟させてから播いてみたところ、発芽はした。だが、蒔いた種の割に芽が少ない様に感じた。覆土後しっかり鎮圧し、上から不織布を掛けておいたので水分管理はしっかりできていたはずだ。

 今年採った種は来年用に保管して置いて、今年栽培した株で再来年用の種を採種する、というのを毎年繰り返した方が発芽率の良い種を毎年使えるかもしれない。
 その場合、選抜や畑へ適応した結果が分かるのが遅くなるだろう。

適切な保管方法で管理する

 人参の種は短命で通常1~2年でかなり発芽率が落ちる。アブラナ科の種は5年は持つと言うし、ビーツなんかは常温放置で3年は発芽率が落ちないようだから、人参はそれと比べると短命だ。

 そこで人参は特に保管に気を遣った方が良い。一般的に種の保管は水分がなるべく含まれないように乾燥させ、密封できる容器に入れて、冷暗所で行う。

 人参の場合は種を天日干しした後、ビンに乾燥材とともに入れて置くと安心だ。しっかりとふたを閉め、冷蔵庫の野菜室で保管する。こうすれば二年間は十分使える状態を保てる。

 まとめて二年分採種し、しっかりと保管して置けば手間を半分にして自家採種した種を使うことができる。

【手作業】縦穴掘りで驚愕の排水性向上! 高価な機械もいらない【実体験あり】

旧水田は水はけが悪い

 現在借りている畑の一つに元々田んぼとして使われていたところがある。この圃場は水はけが悪く、レタスやキャベツを栽培しても、過湿になって生育が著しく悪い場所だったようだ。北側と東側の畔にバックホウで深い明渠も掘ったが、そこまで効果はなかったと聞いている。

 私たちが借り、実際に色々な作物を植えてみた。一年間観察したところ、畑の北東方面の水はけが悪い事が分かった。場所によって生育ムラがひどく、発芽してそのまま腐ってしまったようなものも多かった。

 畝を立てるときに通路部分の土を10~15cm掘り上げているため、元の地面よりも低い所に通路がある。雨が降ると、すぐに通路に水が溜まってしまい、ひどいときは2,3日は水がはけずにたまり続けていた。

 特に排水性が悪いと思われる北側、東側はそのままの地面も水が上がり、びちゃびちゃの状態になっていた。この部分は数日間雨が降らなくとも、土がかなり湿っており、畝上げの際に掘りあげたところ、塊になって全くほぐれなかった。においもどぶのような悪臭で、いかにも生物性、物理性に乏しい土だった。

 このような土で育つ野菜は少なく、水に強いと言う里芋ですら、芽が出る前に長い事浸水したせいか腐ってしまった。この失敗があったからこそ、里芋は芽だしをすることにした(→里芋の芽出しをする)。

水はけ改善に縦穴掘りが効く

縦穴による排水性向上とは

 縦穴掘りは現代農業という雑誌で度々紹介されている排水性を向上させる手段だ。深さ40~60cm程の縦穴を掘っていくだけで、それまで明渠や弾丸暗渠を施工しただけでは排水不良だった圃場の排水性が簡単に向上するというものだ。

 この技術は特に新しいわけではないようだ。

樹木医さんは、樹勢回復のための土壌改良と発根促進法として縦穴を施してきました。(現代農業(農文協) 2021年3月号 59ページより抜粋)

とある。

 なぜこのような排水性改善効果が得られるのか。新しい技術ではないが、詳しいメカニズムはまだ解明されていないらしい。
 仮説としては、硬盤層(地中30cmあたりにできる固く締まった層)を確実に貫通する穴をあけ、そこから水を地下深くに逃がすことができる。地表面、土中、どちらの水も下へ流すため、排水効果が高いとされている。
 また何本もあいた穴への流れは地下で合流する。すると立体的な空気と水の流れが生まれ、圃場全体の水が流れ始める。例えるなら、灯油のポリタンクを一方の口から出す時、もう片方の口も空けることで勢いよく流れるのと似ている。

 さらに現代農業2021年12月号では水や空気が穴の中で渦を巻くことでお互いの駆動力を高め合うことも要因の一つとされている。これはお風呂の栓を抜いた時に水が渦巻くのと同じだそうだ。

 また特に水の滞る場所にピンポイントで穴を空けられる。歴や石などの障害物も確実に避けることができる。

各地の実施事例

 私が初めてこの縦穴掘りを知ったのは現代農業2020年10月号のアスパラハウスでの排水改善についての記事だった。

 このアスパラハウスではハウスの東西で排水性が異なり、それによる生育ムラが大きく出ていたそう。元々は水田転換圃場の排水対策として研究されていた様で、応用して行ったようだ。

 簡単に作業と結果をまとめると、

・ハウスの西側に水が溜まっていることが判明
・畝間にエンジン式オーガで直径10cm、深さ60cmの縦穴を70cm間隔で開けていく
・穴には充填剤としてもみ殻を詰める

 以上だ。これだけでどぶ臭さが改善され、生育ムラもその年中に改善したと書かれている。非常に簡単なわりに、効果がわかりやすく、大きな改善が見られるのが縦穴掘りの特徴といえる。

 現代農業2021年3月号では熊本県の元水田圃場での様子が記事になっている。
 六個の穴を空けただけで20aのグジュグジュ畑が劇的に乾いたそうだ。圃場内に明渠を掘ったりしてみたものの、あまり効果はなかったのに縦穴を6個掘っただけで、むしろ乾燥害が出るほど排水性が良くなった、とある。

 現代農業ではその後の号でも何回か記事が組まれ、様々な地域、圃場でも成果を上げているようだ。水が溜まってしまうと多くの野菜は根腐れなどから生育が悪くなり、病虫害のダメージを受けやすくなってしまう。

実際の畑、作物の様子

縦穴の周辺3m四方が劇的に乾いた→里芋の成長が良くなった

 今年里芋を植え付けた場所は、雨が降ると表層にまで水がしみ出し、ずっとじめじめしている。里芋は水を好むため、このような排水性が劣る場所でも良く育つと考えていた。

 東西方向に約10m作付けし、現在背丈は腰を超えるほどとなっている。たった10数株だが、明らかに生育が悪い部分がある。

220806 草で被覆したの里芋
奥が東側 真ん中の生育が悪い

 写真は奥手が東側になる。この圃場の北側に位置する里芋畝は西側の端2,3mが少し乾き気味、東に行けば行くほど湿り気が酷くなっている。
 東側の方が生育が良く、真ん中が少し劣っている。これはより水持ちの良い東端の株の生育が良いと思っていた。しかし、つい先日里芋の土寄せを行う際に畝に沿って土を15cm程度掘りあげた。
 東側の生育の良いエリアの土は塊で持ち上がったものの、手で簡単に崩すことができた。かといってサラサラでもなく、どちらかというと団粒化したコロコロな状態だった。一方、生育の悪い真ん中あたりの土はがちがちで粘土質の塊で、ほぐそうとしても練ってしまって一苦労だった。

 実は、今年の春、縦穴掘りの効果を確かめてみようと思い、実際にこの圃場に掘ってみたのだった。場所は今里芋が植わっている東側の畔に一つ。丁度生育の良い、東側の里芋3,4株の近くだ。穴の周囲3mがその生育良好エリアにあたる。

220806 真ん中が生育が悪い里芋 縦穴の場所
今年の春に縦穴を掘った


 これからわかるのは、今回は縦穴の周囲が排水性が良くなり、穴から遠いところはまだ排水性が良くなっていない。元々乾き気味だった西側と合わせて、生育ムラが出来たのではないかと思っている。

 里芋といえど、湿り気があり過ぎて土が締まってしまうと生育が悪くなってしまうことも分かった。 

ナスも縦穴の近くの株ほど生育が良い

 同じように、縦穴の周囲は生育が良く、何もしてない中央部分はそれに比べて生育が悪い状況はナスにも見られた。

 ナスは里芋の畝から一本、南側の畝で西側からピーマン、東側からナスを植えてある。
 ナスも水を好む野菜の一つで、水と一緒に養分を吸収するため、水がないと生育が悪いと言われている。そのため、水持ちは良い(水はけは悪い)北側に植え付けてみた。

 ここは通路の土を掘りあげた畝なので、雨が降ると通路に水が溜まってしまい、数日間は畝間が浸水してしまう。そのため、東側の一番端、水が溜まりやすい角にピンポイントで縦穴を掘った。その後も雨が降ると前よりは減ったものの、通路に水が溜まっていた。

220612 水が溜まった畝間
水のたまった畝間

 ナスの生育を見ると、里芋の時と同じように、元々水はけの良い西側と縦穴の周囲3mほどの株はかなり良く成長した。真ん中あたり、丁度里芋の生育が悪いエリアの近くは生育が悪いのが分かる。
 相変わらず、畝間に水は溜まってしまうが里芋の株周りと同じような土質の変化があれば、ナスの生育ムラも説明がつく。

220812 ナスピーマン畝の生育ムラ
中央部がおおきくなっていない
220812 生育良好のナス
生育の良いエリア
220812 生育不良のナス
生育の悪いエリア 同日

 つい先日、ナス・ピーマン畝の生育不良エリアに2mおきに3本の縦穴を掘ってみた。これで生育が改善され、他の株に追いついて来るか観察してみようと思う。

まとめ お手軽、効果的な排水対策

 縦穴掘りはとても簡単で、すぐに効果が期待できる排水対策だ。暑い季節は無理でも、真冬以外なら、秋や春の涼しい季節にやっておけば、必ず次の梅雨時期には効果を発揮してくれるはずだ。

 最後になるが、縦穴を掘る為の道具を紹介しておこう。普通のスコップではせいぜい30cmが限界だろう。普通にスコップでは縦穴というよりもでかい穴が開いてしまう。

 そこで私が購入したのが、朝香工業 金象印 Wらせん穴掘り SD75だ。少し高価だが、次に紹介する電動工具やエンジン式工具よりは圧倒的に安い。深さ50cmくらいまでなら簡単に空けることができる。ひとつ5分もかからないだろう。

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縦穴掘り器

 現代農業ではプロ農家の事例が紹介されており、彼らはオーガとよばれる、デカいドリルのような機械を使用していた。バッテリー式エンジン式があり、どちらも一長一短、価格は数万から数十万するものが大半だ。
 個人的には小規模に使うなら、手動の穴掘りスコップで十分だと思う。

 排水性の悪い土に悩んでいる方はぜひ、試しに縦穴を掘ってみてほしい。大きな効果が期待できるはずだ。

【自然農】おいしい里芋を収穫するための土寄せのやり方【不耕起】

梅雨が明けるころに土寄せをする

 里芋は植え付けた種イモの上に子芋、孫芋ができる。収穫するのはこの子芋、孫芋になるのだが、栽培期間中に地表に出てきてしまう。太陽に当たり、芽を伸ばした子芋、孫芋は細長くなり、味が著しく落ちる。その為、子芋孫芋を土に埋める、さらに芋を太らせるスペースを作るために土寄せをする必要がある。

 里芋の土寄せは、二回くらいに分けて段階的にするのが良い。一度にやってしまうと、葉っぱが出てくる分岐点を埋めてしまうことがある。除草作業も兼ねて、梅雨時期と梅雨が明けた頃の二回、土寄せを行う。
 今年は6月中に梅雨が明けたが、例年なら8月頭に梅雨明けし、乾燥期になるため、8月にも土寄せをした。

 目安は20~30cmほど株元に盛り上げればよい。小山が出来るくらい、土を盛ることになるため、結構な重労働だ。この作業をしないと、美味しい里芋ができないばかりか、そもそもの収穫量も減ってしまうため、頑張りどころだ。

 私たちの里芋は4月25日にポットで芽出し、5月25日に植え付けた。現在の様子は写真の通りで、かなり株に勢いがある。6月半ば、梅雨の晴れ間に一回目の土寄せをした。

220627 草整理した里芋
6月27日の里芋の様子 一回目の土寄せした
220806 草刈り前の里芋
8月6日の里芋の様子

不耕起、しかも粘土質の圃場での土寄せ

 通常栽培であれば、草を生やさない様に管理してあるだろうから鍬で簡単に土寄せできる。土寄せの時期までは保温と雑草対策を兼ねてマルチシートを使用する方法もあるらしく、それなら更に簡単だろう。

 私たちはなるべく、石油資源を使わず、自分たちの身の回りで循環する野菜作りをしている。肥料・農薬を使わず、耕耘機で耕すこともしていない。
 不耕起でも野菜がちゃんと育つ事を確かめたくて、実践中だ。そして、実際に野菜が良く育っている事実を目の前で見ることが出来ている。里芋も、周りの畑よりも大きく育っているように見える。

 里芋栽培では土寄せが必ずといってよいほど必要だ。不耕起栽培だと、非常に相性が悪い作業だ。なるべく土を動かさないという考えと真っ向から相反する。今回は「耕さない」ということにとらわれずにしっかりと土寄せをする方法を考えた。

草を刈り、表土をむき出しにする

 まずは草刈りから始めた。こまめに草刈りをしているはいえ、結構大きな草が目立っている。ここまで里芋が大きくなれば、もう草に負けることは無いと思うが、せっかくなのでしっかりと刈り取った。今思えば、南側15cmくらいに生えている草は残しておき、日差しを遮るネット代わりにしてもよかった。

220806 草刈り後の里芋
表土が見えるくらい、草を削った

 今回は株から40~50cm脇にそれた通路の土を掘りあげ土寄せに使うため、通路部分までしっかりと草を削った。青草が混ざると、ガスが湧き生育に悪影響があるかもしれないので丁寧に。この作業が一番時間が掛かった。立鎌や草刈機を活用して時間短縮できれば、もう少し規模が大きくなっても対応できるはずだ。

土を剣先スコップで掘り上げる

 次に剣先スコップで通路部分の土を掘りあげた。やり方は「不耕起畑での畝の立て方」で紹介しているような方法で、まず切り込みを入れてから掘りあげる。

 作業自体は畝立てで慣れているため、簡単だった。
 ここの圃場は元田んぼで水はけが悪く、塊になっている。本来であれば、数日日光にさらして半乾燥くらいにすれば作業性が良かったかもしれない。今回は天気が読めないことから一日で済ませてしまった。

 あとは手でほぐしながら株元に盛り上げた。同じ一本の畝でも場所によって土の水分量がかなり違っていた。この圃場は北、東側になれば水はけが悪く、南、西側はすぐに水がはけ乾燥気味だ。
 里芋は水分を多く好むため、一番北側に東西方法に植えてある。大体中心を境に成長が比較的良い方、悪い方がある。基本的に水はけの悪い東側の株が大きかったため、やはり里芋は水はけが悪い方が育ちが良いのだと思っていた。

220806 土寄せ後後の里芋
20cm以上、土を盛りあげた

 しかし、実際に土寄せの際に触っていると、生長が良い株ほど土が乾き気味だった。東側は掌でこすり合わせればボロボロと崩れ、コロコロの土だったのに対し、育ちの悪い西側は塊が二つにパカッと割れるほど水気があった。

 本来だったら東側の方が水はけが悪いはずなのに、何故水はけが改善していたのか。これについては思い当たる節があるため、また記事にしたいと思う。そして、里芋はある程度の水はけも良く、保水力が高い土を好むと言うことがわかった。

厚めに刈り草で被覆する

 土寄せが出来たら、刈り草で表土が見えないように被覆する。これまで敷いてあった草では足りないので畔を刈った時の草も集めて来た。

 里芋は乾燥を嫌う。これからの時期、雨が減り、日差しが強く照り付ける。水分がしっかりと保たれていれば里芋はぐんぐん成長していく。毎日水やりをするのは大変なので、降った雨の水分を効果的に保持するために厚く草で被覆する。

220806 草で被覆したの里芋
刈り草で10cm以上被覆した

 草の保湿効果は高く、10cmも敷いてあれば、2週間雨が降らなくても大丈夫だろう。ここの土は粘土質で乾燥するとカチカチに固まってしまう。刈り草で被覆すると、土をふかふかにしてくれる効果もある。

 そして草は土壌生物のエサになり、次の世代の栄養に変わる。草は雑草扱いされ、邪魔者扱いされる。でも、同じ植物として、土の養分や光合成したエネルギーを蓄えている。これを畑から取り除かずに土に還していくことで肥料を与えなくても野菜が育つ循環を作り出すことができるはずだ。

 そう思いながら、しっかりと草で被覆した。

不耕起栽培の欠点は作業性の悪さ

 ここまでくれば里芋は10月の収穫を待つばかりだ。無肥料、無農薬、不耕起で育った里芋の味が楽しみだ。

 不耕起栽培の最大のデメリットは作業性、効率性が悪いことだ。草を生やす草生栽培だと更に作業性が落ちる。草生・不耕起のダブルパンチだ。今回の作業も、十数株の里芋に対して2時間ほどかかった。今年は良いけれど、もう少し多めに作るとしたらやり方を考えないといけない。
 環境を負荷を与えない、資源に依存しない農業をするためには多少の非効率には目をつぶらないといけないことを実感した一日だった。でも、その非効率さを気楽に受け入れられるような、ゆとりのある暮らしをしていきたいとも思った。