【鉄資材】鉄タンニンを畑に使ってみた【土壌改良・生育促進】

鉄タンニン、タンニン鉄とは

  鉄タンニンという言葉を聞いたことがあるだろうか。私の愛読書、「現代農業」で三回も特集が組まれ、その実績から全国で実践者が増えている。京都大学の野中鉄矢先生が一般社団法人「鉄ミネラル」(→鉄ミネラルのホームページはこちら)という団体を設立し、研究や活用を勧めている。

 私たちは無施肥、無農薬の循環した野菜作りを目指している。基本的に畑には種以外持ち込まないいわゆる「自然農法」で栽培をしている。それは外部資材に頼らずとも、食べ物を自給し、環境負荷を極限まで減らした栽培法こそ持続可能な食糧生産だと考えているからだ。
 その観点から言うと、鉄タンニンという資材を使うのはポリシーに反するのか。実は鉄タンニンは広葉樹の葉っぱ(幅広い葉っぱ)、わかりやすいのは緑茶葉に含まれるタンニンと鉄(どこにでもある)が反応してできる。つまり、身の回りで完全に自給することができる。
 鉄タンニンは自然界で鉄の循環を担っている物質だと言われている。山の鉄分が広葉樹のタンニンと結合し、鉄タンニンになる。それが雨に溶け、川から海へ流れ込む。こうしてミネラルが循環し、森と海は豊かになっていく。人為的に鉄タンニンをまくことは、森と海の循環に畑を組み込むことを意味する。私たちの循環する野菜作りに一歩近づくのではないか。

 私たちは鉄タンニンを栽培に活用していこうと思っている。今回はその鉄タンニンとは何か、どんな効果があるのか、なぜ効果があるのか、自分の圃場での実践例を紹介しようと思う。

 まず、鉄タンニンとは茶葉(落ち葉)と水、鉄があれば簡単に作ることができる。この三つを一つの容器に入れて置けば、数日で水が真っ黒に変化する。すると鉄タンニンの完成だ。これは葉に含まれるタンニン(渋みの素、ポリフェノールの一種)と鉄がくっついたものだ。

220828 鉄タンニンの液
鉄タンニン水

 鉄は酸素があると酸化鉄となり、水に溶けない。そのため、自然界で循環しづらいミネラルとして知られている。水に溶けないので植物も利用しにくい。しかしタンニンと結びつくと水との親和性が生まれ、植物にも吸収されやすくなる。

 この鉄タンニンを畑に散布すると、野菜が健康に、美味しく育つと言われている。全国各地で農家が実践し、目覚ましい成果を上げていることから注目を集めている。

鉄タンニンの効果

 鉄タンニンを野菜に散布すると、様々な効果がある。

 まず食味の向上だ。葉物類、例えばほうれん草や小松菜は収穫2週間前に散布すると、エグミがなくなり生でも美味しく食べられるようになると言う。野菜本来の甘味や香りも出る。さらにツヤやテリも出て見た目も綺麗になる。

 次に生育促進効果も期待できる。鉄タンニンを定植時に散布すると対照区と比べ、初期生育が悪いがすぐに追いつく。そして葉色が濃くなり、大株に育つ。根を掘ると、根張りも良くなるようだ。根が発達するため、地上部も大きく育つのだろう。

 「現代農業」では2019年10月号、2020年1月号、2020年10月号で鉄タンニンの特集が組まれ、全国各地の様々な事例が紹介されている。いかに一部の概要を列記する。

・きゅうりの側枝が増え、収量が三割増えた(茨城県・八千代町)
・火山灰土の高原圃場で糖度17度のスイカ(兵庫県)
スイカの他にトウモロコシ・イチゴ・ケール・ネギなどに施用。効果と変化を検証中
・葉物野菜のアミノ酸含有量が増え、旨味甘味がアップ(埼玉県)

 いずれも良い成果を上げているようだ。

鉄タンニンをまくと何が起こるのか

 なぜ鉄タンニンをまくと野菜の生育が良くなり、食味も向上するのか。

 これはまだ確実な科学的根拠があるわけではないようだ。鉄タンニンを用いた野菜作りを推進している京都大学の野中鉄矢教授が「現代農業」や自身の一般社団法人「鉄ミネラル」などで発表している仮説がある。

 まず、鉄は重要なミネラルであるにもかかわらず、十分な施肥がされておらず多くの圃場で欠乏している。そこで植物が吸収しやすいタンニンと結合した鉄を散布することで、植物が鉄を十分使えるようになるから野菜本来の力を取り戻すと言うものだ。

 鉄は植物が光合成をするのに欠かせない葉緑素の構成元素のひとつだ。葉緑素を十分作り、光合成が活発になることで地上部の生育がよくなり、エネルギーも十分あるため、糖分を蓄えることができるようになる。

 また植物が吸い上げた硝酸体窒素(植物が吸収できる形の窒素)をアンモニア(植物が利用する形の窒素)に変換する酵素(生物の体内で製造を担う物質)にも鉄が必要だ。このため、葉物野菜でアミノ酸含有量が増加するといったことが起こる。

 さらにタンニン鉄をまくと畑の土が団粒化するようだ。現代農業2020年10月号にはタンニン鉄の施用の有無で土の微生物量を比べると、施用ありの方が多かったという記述がある。特に糸状菌を食べる放線菌の数が増えた。
 これから何が言えるのか。放線菌は土の有機物を盛んに食べ、次の微生物のエサになる。また病原菌の多い糸状菌も食べる。つまり、鉄タンニンをまくと微生物のバランスが整い、数が増えることで良い土になる。それにつれて土も団粒化していく。

 この二つの相乗効果で野菜にとって、良い影響をもたらしているのだろう。

百姓農園での実践例、比較検証

 明確なメカニズムがわかっていなくとも、これだけ手軽に自分で用意できる資材で効果があるのなら試してみようということで様々な野菜で実験してみた。

 タンニン鉄の散布量はあまり厳密に決まっていないようだ。過剰になり過ぎる心配は常識の範囲内で使えば、気にしなくていいらしい。さすがにトマト1株に100Lとか、毎日水やり代わりにやり続けるなどしなければ良い。

 実践者の事例から見るに、鉄タンニン水を最大10倍程度に希釈して1株1L程度(トマト、ナスなどの果菜類の場合)を定植時、収穫開始時、それから1か月後の計三回散布するだけで効果があるらしい。葉物野菜の場合、収穫の2週間前にさーっと掛けるだけで良いそうだ。

 今回は40Lの水に対して、100均の鋳物スキレット、緑茶パック10個を投入して鉄タンニンを作った。夏場は温かいため、5日もあれば水が真っ黒になる。液が黒くなれば完成とした。直ぐに使わない場合もお茶と鉄は入れっぱなしでOKだ。
 お茶は有機物なため、1週間もすると腐敗集がしてくるが問題なく使用できる。むしろ腐敗臭がして来れば鉄タンニンは完成したと思ってよい。

 散布量は原液、もしくは2倍希釈液を1㎡あたり1Lにした。実際に散布すると一瞬表面に水が溜まり、すぐに引けていく量だ。水やり時の量よりも少ないと思う。

定植から3カ月経過した生育の悪いトマト、ピーマン、ズッキーニ

 まずは今年の春に植えたトマトやピーマン、ズッキーニといった果菜類で試してみた。例年通り、数株は生育の悪い物があり、8月半ばの時点で他のものと比べて半分くらいしか育っていない株にかけてみた。

 写真ではわかりづらいのだが、散布して1週間ほどすると、生長点から少し濃い色をした新芽が出ていた。それまで成長が緩慢だった株がそれなりのスピードで成長し始めた。

 特にズッキーニはわかりやすく、5月の終わりごろに播種し、あまり育っていなかった株が散布してから旺盛に生育を開始した。実も付き始めている。

 ピーマンも同様、生育が悪いエリアの株のうち数株にピンポイントで散布したところ、気づけば周りよりも一回り大きく成長していた。着果も良好で順調に育っている。
 トマトはいまいちわからなかったが、若干散布した株の葉色が濃くなったように思える。

8月播きのズッキーニ

 ズッキーニの3回目の種まきを8月1日に行った。品種はバンビーノという短形の固定種ズッキーニだ。この圃場では比較的旺盛に生育してくれた品種だ。

 5株中2株に発芽から数日後に1Lずつ散布した。その後8月27日になり、花芽がついたため二回目の散布を行った。

 こちらは鉄タンニンの効果がてきめんだった。写真を見れば一目瞭然だろう。散布した2株だけが他の3株よりも一回り大きく、花芽も早く着いた。鉄タンニンは散布直後は生育を抑制することがあるそうだが、それは見られず最初から良く成長した。

 これから1週間ほどすれば収穫が始まるため、食味の違いも観察してみたい。

人参とビーツでの比較検証

 7月21日播種のビーツ、7月26日播種の人参はそれぞれ畝の半分ずつ分けて、鉄タンニンの有無で比較している。

 こちらは散布の有無で生育の違いが見てわかる。
 ビーツは播種から2週間後くらいに散布し、鉄タンニンを散布した左側の方が生育が良い。葉の密度が違うのが分かるだろう。ビーツは既に肥大が始まっているが、散布した方が大きい株が多い気がしている。

220823 bi-tu
左:鉄タンニン有り 右:鉄タンニン無し


 人参は発芽直後に散布したが、散布区の方が若干生育が遅れている。これは雑誌の記事でもあった通り、生育が遅れるということだろう。

220823 人参 タンニン鉄あり
鉄タンニン有り 若干小さい
220823 人参 タンニン鉄なし
鉄タンニン無し

 特にビーツは、癖やエグミが強い野菜なので鉄タンニンによる食味向上が分かりやすそうだ。

どんな変化が現れるか、楽しみだ

 他にも秋冬野菜にはほとんど鉄タンニンを散布した。比較になっていないものもあるが、どのくらい変化があるのか楽しみだ。
 もし、病気や虫害が多発するようなら使用を中止するなど考えていこうと思う。鉄タンニンは自然のなかで鉄の循環を担っているようなので、むしろ良い影響の方が多いと思っている。

 現代農業ではもっと詳しく紹介されているため、該当の号をチェックしてみて欲しい。そして、簡単に鉄タンニンは作れるため、秋冬野菜にかけて試してみて欲しい。

「【鉄資材】鉄タンニンを畑に使ってみた【土壌改良・生育促進】」への1件のフィードバック

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください