垂直仕立て栽培という世にも奇妙な栽培法
垂直仕立て栽培という栽培法をご存じだろうか。もしかしたら案外知っている人も多いのかもしれないが、私は名前だけ知っていてどんな栽培法なのかはつい先日まで知らなかった。本屋に行ったら垂直仕立て栽培についての本がたまたま目について、本を手に取り、中を見てどんなものか知った。
目から鱗だった。野菜を文字通り、垂直に仕立てるだけで収穫量が増え、病害虫に強くなり、しかも食味まで向上すると言うものだった。あまり言いたくはないが、奇跡の栽培法になるのかもしれない。
このような栽培法にありがちな、「いやそれはちょっと無理があるでしょ」感や「それはあなたの畑ではできるだけなのでは?」といった感想はなかった。というのも、科学的にも納得のいく説明がされていたからだ。数値のデータがあるわけではないが、少なくとも理に適っていて、無理のない理論だ。
今回はこの「垂直仕立て栽培」を紹介したいと思う。
ちなみにONE PUBLISHINGから「野菜の垂直仕立て栽培(監修 道法正徳)」が出版されており、この本から垂直仕立て栽培について知った。興味がある人はぜひ手に取ってみて欲しい。
無肥料下で真価を発揮する垂直仕立て栽培
垂直仕立て栽培とは、ずばり垂直に立てた支柱に全ての枝や茎を縛り付ける栽培法だ。広島県の道法正徳さんが考案した栽培法で、御自身も実践しながら全国で普及活動をされているようだ。
脇芽欠きは基本的に行わず、たい肥や肥料も畑に投入しない。これで、
①生育が良くなり収量増が見込める
②野菜の味がよくなり栄養価も高くなる
③病害虫に強く、天候不順の影響も受けにくい
といった驚きの栽培法だ。通常、野菜には肥料をしっかり与えて、病害虫には農薬やその他資材で対処し、きちんと整枝して育てる。これが「常識」なら、垂直仕立て栽培は「常識の反対」であると著者は述べている。常識の栽培でも病害虫はなくならないし、本当に野菜が喜んでいるのか考えた結果、この垂直仕立て栽培にたどり着いたようだ。
垂直仕立てでなぜ野菜が良く育つのか。そのメカニズムは植物ホルモンが大きくかかわってくる。植物ホルモンとは生長、開花、結実などの植物生理や生長過程を決める重要な物質で、どの植物にも共通する物質だ。
この本では4つの植物ホルモンが紹介されている。
①オーキシン
生長点で生成され、根の先端に届くと新しい根が盛んにできる。また、結実性を高める働きもある。「トマトトーン」はオーキシンうを化学合成したもの。
②サイトカイニン
根の先端で生成され、細胞分裂を促す、着花量を増やす、傷口を治すなどの作用を持つ。
③エチレン
エチレンは細根で生成される。果実の熟期を促進する作用がある。青いトマトをりんごやバナナと一緒にビニール袋に入れて置くと早く熟すのはエチレンの作用である。エチレンは体内で酸化エチレンに変わり、病害虫から自分を守る。
④ジベレリン
細根で生成され、盛んに生成される。脇芽を増やし、葉を大きくする「成長促進ホルモン」。また、着花を阻害したり、熟期を遅らす作用もある。
オーキシンは生長点で生成され、重力によって下に降りていく。根部まで到達すると発根を促す。枝が真っすぐでないと、スムーズに根に到達できず、根の発達が不十分になる。
他の三つのホルモンは根の細根部分で生成され、身体の隅々まで運ばれる。根が十分張れていると、これらのホルモンもたくさん生成され、生育が良くなる。
さらに大事になるのが、無肥料で栽培することがこの栽培の肝であると言う点だ。肥料分、特に窒素が多いと、生長促進ホルモンであるジベレリンが過剰分泌される。ジベレリンは葉っぱや茎を茂らせる一方で、着花を抑制する作用がある。そのため、ツルボケ(木ボケ)になり、収穫量が減る。また、窒素分が多いと、病害抑制のエチレンの生成も減り、病気になりやすくなるそうだ。
思えばスナップエンドウは毎年良く出来ていた
この本では様々な野菜について、それぞれどのように垂直仕立てで栽培するかの説明が書かれている。そのうち、エンドウの項目ではネットに這わせたツルを垂直方法に伸びるようにし、両側からひもで支えると紹介されていた。
はじめてスナップエンドウを栽培した時から、このような誘引方法を取っていたのを思い出した。というかスナップエンドウはこれ以外にうまく誘引できないと思うが。
というのは置いておいて、スナップエンドウは既に垂直仕立て栽培を実践していたことになる。うちの畑では未熟な栽培技術、土によってあまり上手にできない野菜が多い。でも、スナップエンドウだけは毎年かなり良く出来ている。
垂直仕立て栽培では無肥料で、自家採種した種を直播で栽培することが最も効果的だとされている。うちのスナップエンドウは自家採種して、無肥料で栽培しているのでまさに垂直仕立て栽培の真価を発揮した結果だと思っている。
今年のスナップエンドウも自家採種二年目、無肥料二年目となる圃場で直播栽培だ。今年も順調に生育しており、アブラムシやハモグリバエの被害はほとんど無い。他の野菜が壊滅状態になりやすい私たちの畑の中で今年も良く出来そうだ。今絶賛開花中なので楽しみだ。
余談だが、うちのスナップエンドウは3年間、同じ畝で連作している。通常、エンドウ類は連作障害が出やすく3~5年ほど間隔をあけて栽培することとなっている。しかし、自然農、自然栽培のうちの畑では連作障害らしき症状は出ていない。他の自然農、自然栽培実践者の間でも連作障害が起きにくい、気にしたことがないと言う話はよく聞くため、やはりそうなのだと思う。
この連作障害については、自身の経験と実践者の経験談から自然農では連作障害が起こりにくい、むしろ連作した方が良い結果となる、といったところまで言えるかも知れない。また後日詳しく書きたいと思う。
垂直仕立てなら小スペースで生産性も上がる
トマトやナス、ピーマンなどのページを見ると、それは見事に一本の支柱に全ての脇芽をくくり付けてある図解が載っている。実際には増えすぎた脇芽を除去する目安や枝更新についても説明があり、取り敢えず実践できそうだ。
全ての枝が一本の支柱に沿っていると言うことは、一株が占有するスペースを狭くしても良いと言うことだ。ナスやピーマンは斜めに脇芽を誘引してY字型のように仕立てるため、かなり横に広がる。垂直仕立てにすれば、株間を少し詰めても、株間は十分確保できる。そのため、単位面積当たりの作付を増やすことができ、小スペースで多収出来る。
自然農では機械化しづらい面も多く、大きな面積にすればするほど、使わないスペースが増えれば増えるほど手間も増えていく。同じ面積で1.2倍、1.3倍と栽培できればかなり楽になる。
ナス科野菜に限らず、葉物や根菜にも同じことが言える。この本では株数の極端に多い、葉物や根菜は一株縛らず、ある程度の間隔にさした支柱を使って、ひもで葉を垂直に立たせる方法が紹介されている。
また、さらに株数が多い場合は通常より株間を狭くし、密植気味にすることで葉っぱが自然に立ち、生育が良くなると書かれている。
これで無理なく栽培密度を上げて、生産性を高めることができる。自然農は生産性の低さが大きなハードルとなるため、垂直仕立て栽培を導入するメリットは大きい。
今年は色々な野菜で垂直仕立て栽培、実験します
垂直仕立て栽培、特別な資材もいらないし、無肥料でこそ最高の結果を出してくれる、自然農に相性の良い方法だ。どの野菜にも適応できる、植物本来の持っている力を活かす。
今年はナスやピーマン、トマト、大根、里芋など色々な野菜で一部を垂直仕立て栽培にしてその効果を検証してみたいと思う。その様子はこのブログやインスタグラムなどで更新して行きたい。