【固定種・在来種】自家採種できる野菜の種が手に入る場所【海外品種】

 家庭菜園や小規模な畑で野菜を作っていると、野菜にはいろんな種類があり、それぞれにたくさんの品種があることが分かる。どんな野菜を育てようか、毎年冬の間に考えて、種の準備をするのも畑仕事の醍醐味だろう。
 最近ではホームセンターの園芸コーナーはもちろん、スーパー、100円ショップでも野菜の種が売られていることがある。インターネットショップも数多くあり、園芸店や種苗店のオンラインショップがたくさんある。

 大型店、園芸コーナーでは、メーカーの一押し品種だったり、農家でも作られているような質の良い一般的な品種が多く扱われている。ホームセンターに行くと、どこにいっても似たような品種の種ばかり並んでいる。

 自分で畑をやっていると普通には手に入らないような珍しい野菜だったり、品種を栽培したくなってくる。そこらのスーパーや直売所では売っていない野菜でも自分で種を買えば、何でも作ることが出来る。
 そうしたときにいつも種を買っている場所によっては、なかなかお目当ての野菜の種が手に入らないことが多い。

 特に自家採種をして、種を自分で用意したい人は家庭菜園愛好家にも多いと思うが、多くの品種は自家採種がしにくい交配種が主だ。

 そこで固定種や在来種のような、あまり売られていない品種を買うときに利用してる場所を紹介しようと思う。

地域ごとの種苗店

 古くからその地域にある種苗店に行ってみるのもおすすめ。私たちが住む長野県佐久地域なら、佐久市の嶋屋種苗、小諸市の小山種苗、上田市の樋口種苗などがある。地元の家庭菜園家や農家が昔から利用しているお店であることが多い。

 種苗専門店なだけあって、量販店やホームセンターではあまり扱っていない品種も多く扱われている。また各種苗メーカーのカタログがあり、欲しい品種があれば直接取り寄せてくれるため相談してみる。

 お店の人やお客さんから得られる情報もあるためお住まいの地域の種苗店を探してみて欲しい。

野口種苗研究所

 埼玉県飯能市にある野口種苗研究所には、今やほとんど流通していない固定種、在来種の種が多く取り扱われている。店主の野口勲さんは手塚治の「火の鳥」編集者であり、家庭菜園における固定種の種の重要性、良さを熱心に取り上げて下さっている。
 かなり豊富なラインナップでここでしか入手できない固定種・在来種の種も多い。オンラインショップもあり、全国から購入できる。
 ホームページには野口さんが綴った「野菜の話し」やその他野菜栽培に関する読み物が数多く記録されている。一度読んでみることをおすすめする。

高木農園・つる新種苗

 どちらも長野県松本市の種屋さん。固定種の種や、一般野菜でも普段は見かけない品種も取り扱いがある。オンラインで購入できる。

  つる新種苗は自然菜園家として知られる竹内孝功さんが考案した「自然菜園緑緑肥mix」を取り扱っている。この緑肥の種は実際に使ったことがあるが、長い期間草が生えてくれて、草マルチやグラウンドカバーとしてとても便利だった。また、おそらく竹内さん採種と思われる自然菜園採種の野菜の種が販売されている。

自然農法国際研究開発センター

 長野県安曇野市にある当センターは、自然農法による農業生産を研究している。新規就農者向けの研修や、試験栽培のほかに、自然農法向けの品種改良・開発もおこなっている。
 自然農法センターの品種は種とりの元となる固定種と、一般栽培用の交配種、また自然育種によって生まれた品種もある。交配種は種採りできないが、固定種も多く取り扱われている。ここで育種などを長年務められた中川原敏雄さんが書いた自家採種に関する書籍も多い。

 どの品種にも共通して言えるのは低(無)肥料、草生栽培下で本来の力を発揮する点。自然栽培や低肥料栽培を実践する人にとってはおすすめの品種が多い。また、珍しい固定種のトマトも扱っている。

→https://www.infrc.or.jp/

青空マルシェ

ホームページ→https://www.marcheaozora.com/
 オンラインショップで世界中から集まる非常に珍しい品種の種が入手できる。
 他の種苗店ではまず扱っていない野菜が多く、珍しいものを栽培したい場合はこのお店を見ると良い。
 トマトを例にとっても、10種類以上の品種がある。世界各地でエアルーム品種として栽培されているものもある。
 ネット上のレビューを見ると、届いた種を栽培したら注文したものを異なるものが育ったり、そもそも発芽しなかったりという声がいくつか見られる。信頼度が少し劣るが、やはり珍しさはピカイチである。

無農薬・無化学肥料のたねの店 たねの森

 たねの森では、無農薬・無化学肥料で栽培、採種された野菜の種が入手できる。採種栽培において、無農薬・無化学肥料栽培が明記されている種は数少ないため、こだわる人にはありがたい。
 多くの品種がそれぞれの地域で長く栽培されてきたエアルーム種で、種採りが推奨されている。理念には共感できるものがあり、こちらも一度目を通してもらいたい。

その他、インターネットショップを持っている種苗店などで固定種や自然栽培採種品などの文言に注目していればいくつか自家採種可能な種を手に入れることができる。

【自然農】自給自足に欠かせない大豆栽培。種まきから収穫後の選別までのまとめ【自給農】

自給自足に欠かせない大豆とその加工品

 味噌や醤油などの調味料、納豆や豆腐など大豆から作られるものはたくさんある。なかでも調味料の自給はロマンと実用性を兼ね備えており、自給自足な生活を送るうえで欠かせない。

 日本人の食生活に大きな影響を与えている大豆だが、国内自給率は実に約7%と、ほとんどを輸入に頼っている。なかなか国内の需要を満たすだけの供給はできないのが現状である。だが自給分であれば、大豆は十分自給可能であると思う。一昨年、昨年と栽培してみた結果をまとめてみた。

手作業で大豆を栽培する

 今年、私たちはほぼすべて手作業で大豆を栽培した。普通、大豆農家であれば、数haの広い土地で、大型機械を使用した大規模で効率的な栽培になる。5.0ha以上の耕作面積を持つ農家は全体の大豆農家の1割だが、耕作面積は全体の6割を占めることからも、大規模集約的な栽培が伺われる。さらに国産大豆の内、有機栽培されるのは0.5%ほどでかなり希少なものとなる。

 私たちは自分たちが食べる分だけ栽培すれば良いので、他の野菜と同様、自然栽培でやってみた。無肥料、無農薬栽培になるが、大豆はマメ科の野菜で窒素分を空気中から固定する力があるので、自然栽培に適した作物だろう。

220131 綺麗になった大豆

 使用した機械は種まきと除草のための刈払機と、選別するときの扇風機のみだ。基本的に手で種をまき、草が生えて来たら鎌で刈り、収穫と脱穀、選別まで全て手作業で行った。ゆえに動力は自分の身体がほとんどだ。

 結論としては、時間がそれなりにかかるが、今年の栽培面積くらいなら無理なく全ての作業をすることができた。

2021年の栽培面積、作業時間、収量の結果

①播種

 2021年は20mの畝を2本分で、約40平米で栽培した。播種した大豆は150gほどだった。栽培した品種は長野県在来種のナカセンナリ。2020年に初めて種を購入して栽培し、自家採種したものを使用した。

 播種したのは6/10。播き方は二種類試した。どちらも草が生えているところを耕すことなく播いた。半分は草刈り機で地際ぎりぎりまで刈り、種をまく場所を鍬で薄く削って地面を露出させてから播いた。

 もう半分は草刈りをざっとして、種をまく、ちょうど手のひら分だけ手鎌で刈り込んでから播いた。

 それぞれかかった時間は倍くらい違う。丁寧に作業したほうは20平米で1.5時間。もう一方は同じ面積で40分ほどだった。実際の作業も、ざっと草刈りして播く方が圧倒的に楽だった。

②草刈り・間引き
 発芽は播種後の雨のおかげで簡単にした。その後の管理は、大豆の成長に合わせて伸びた草を刈っていくだけだ。

21060 発芽
種まきから10日後

 最初はしっかり地面を削ったほうが雑草の数は少なく、楽なように思われた。簡単にやったほうは生長点も残っているので大豆とほぼ同じ大きさの草が揃って生えてきた。
 大豆が草に埋もれない程度の頻度で、手鎌と草刈り機で刈っていく。一回あたり約1時間。最初の草刈りの際に、双葉が揃っていない大豆は間引いた。

 大豆の成長は早く、草刈りの頻度は後半になるにつれて下がっていった。合計で4回、草刈りに入った。9月以降、草刈りをした記録がないのでその後は放置で育った。種まきの仕方による差はほとんどなかった。

210907 発芽後10週間 腰くらいまで北
発芽してから70日後

 気を付けたのは、開花期にあたる8月上旬までに厚めの敷き草をすること。大豆は開花期の渇水で莢つきが著しく悪くなる。敷き草をしておくと、地面の乾燥をかなり抑えられるので8月の乾燥期までにしっかりと準備をしておく。これはナスやトマトなどの野菜にも同じことが言える。

③収穫・脱穀・選別

 普通ならビーンハーベスタで一気に収穫するのだろうが、私たちにそんなものはない。そこでのこぎり鎌で地道に刈り取った。地際で刈ると腰をまげることになって大変なので、無理のない高さで刈り取った。刈り取った株はビニールハウスに運び込んで1週間ほど乾燥させた。

211106 発芽後17週間 ハウスで乾燥
ビニールハウスで乾燥

 脱穀は手作業でも使える千歯こきのような道具があるようだが、わたしたちは持っていないのでひたすら手で脱穀した。最初は長靴で直接足踏みするように外した。株をどけるとたくさんの大豆が空の莢や枝葉と一緒にあつまっているのでそれをコンテナに移す。これをひたすら繰り返し、約2時間ほどで脱穀できた。

220125 脱穀終わり、篩まで
脱穀した大豆

 選別作業はえごまの選別や大根などの野菜の種にも共通する作業なのでかなり慣れてきた。
 まずは大豆が落ちないサイズの篩にかけて、小石や細かい残渣を落とす。次に大豆が通れるサイズの篩で大きなごみを取り除く。
 この後、風選を行う。風選とは風の力で軽いゴミを吹き飛ばして選別する方法。唐箕という専用の道具もあるが、もちろん私たちは持っていない。そこで扇風機で風を送って風選することにした。扇風機の前で大豆を落とすと、きれいに莢や葉っぱ、かけた大豆が吹き飛ばされて、きれいな大豆が残る。

220125 風選
風選

 ここまでくればあと一息。

 最後は目視で大豆を選別していきます。割れていたり、黒く干からびているもの、病気で黒斑・紫斑が出ている豆を取り除きます。根気のいる作業ですが、自分たちが食べる大豆です。気楽に気長に楽しんで頑張ります。
 ①傷もなく、形が綺麗なもの、②割れたり、形が悪いけど食べられるもの、③食べられなそうなもの、で分けていきました。

 選別にかかった時間はざっと3時間ほど。収量はつぎのようになりました。

合計
5400g 4560g (84%) 240g 600g

 作業時間の合計は、①栽培で6時間、②選別で3時間の9時間となった。これらを栽培農家の平均と比べると、

  収穫量 収穫量(10a換算) 作業時間 作業時間(10a換算)
自給栽培 4.5kg 112kg 9時間 225時間
長野県   140kg   14時間

 時間に関してはどうしてもかなわないが、収量は思ったより悪くないと思う。資源の投入無しでこれだけ収穫できれば十分だろう。自分たちの作業時間はもう少し早くできる部工程があるので来年に活かす。

自給するなら大豆を作ろう!

 今年収穫した大豆を使って味噌を作るつもりだ。味噌は日常的に使う調味料なので、自家製味噌を食べるのが楽しみだ。割れてしまった大豆もきな粉にしておいしくいただくつもりだ。豆腐作りにも挑戦したい。5キロくらいならすぐに消費してしまいそうだ。

 今年栽培した経験からすると、10kg、いや30kgくらい収穫できるくらいまで規模を大きくできそうだ。それだけあれば、自給分はもちろん身の回りの人たちにあげる分もありそうだ。

 2022年はもう少し栽培する量を増やして、味噌や豆腐をたくさん作りたいと思う。種もは自家採種2年目となり、より土地にあった大豆になることを期待している。また、唐箕や千歯こきなどの古くから使われてきた便利な農具をしっかり活用しながら保存して行きたいので使われずに眠っているものを探したい。

 大豆を選別してみて、食べられないクズ大豆がそれなりの量でた(約10%)。今年は畑の土に戻すつもりだが、これを活用する方法もある。私たちは最終的に鶏を飼って、卵を自給したいと思っている。大豆は栄養価が高く、鶏のエサとしても有用だ。より循環する生活を目指すうえでも大豆は必ず作りたい作物だ。

【自然農】2021年のミニトマトが全然できなかった理由とその対策【不耕起・無肥料】

上手くいかなかった原因を考察する

 昨年のミニトマト栽培はロッソナポリタン(パイオニアエコサイエンス)を栽培し、かなり豊作だった。次々と開花し、霜の降る10月下旬まで収穫が続いた。背丈は2m近くまで伸び、緑のカーテンのようになっていた。収穫終了間際に自家採種も行った。

 今年はロッソナポリタンの自家採種1代目の種を使用した(→2020年の自家採種はこちら)さらに育苗の手間を減らした栽培を目指した。栽培方法を自然農に切り替えたこともあって、肥料は前年から一切加えていない。耕すこともせず、伸びた草を畝上に刈っては敷くことを繰り返した。
 育苗は4月上旬から35日程度で、本葉3枚ほどで仕上げる予定だった。標準では約60日間、第一花房が付き始めるころまで育苗するのでかなりの若苗になる。畑に定植したのが5月20日前後の十分に気温が上昇してからだったが、その後の成長がよくなかった。不耕起による弊害でモグラの巣穴で根が伸びず、成長が止まってしまった株も多く見られた。

育苗の失敗した点

 今回の栽培において、失敗に終わった大きな原因は育苗にあると考えている。そのうちの一つは苗が小さすぎた(成長ステージが手前過ぎた)こと。もう一つは育苗土の肥料分が多く、圃場の栄養分が少なかったこと。この二つがお互いに影響し合ったのではないか。

 育苗土はタキイの種まき用土を使ってみた。肥効が長く、保水力が高いとのことだった。本来であれば、育苗土も自前で用意したいのだが、準備するのに時間が掛かるため、市販の土を使用した。
 この土はNPK=600,1200,570(mg/l)で肥効が30-40日の長期肥効型の種まき培土だ。肥料分が多く、長い期間育苗できる。これを50穴セルトレイに詰めて使用した。発芽は良く、順調に生育していた。

21051 発芽はばっちり


 育苗を終え、畑に定植したのが5月20日ごろだった。その後活着は早かったものの、成長が遅く、50株植えてまともに収穫できたのは3株ほどしかなかった。
 これは育苗土には十分すぎる肥料が含まれていた一方、定植後の畑の土にはほとんど肥料分がなく、その環境変化に対応出来なかったのではないかと考えている。私たちの圃場は前述の通り、施肥を二年間していない。雑草の生え方もそこまで旺盛ではなく、地力は低めだった。
 植物にはその時の環境に合わせて、伸ばす根を変えているという話しを聞いたことがある。肥料たっぷりの育苗土で過保護気味に育てられた苗は、自然農的な土の厳しい環境に適応できなかったのだと思う。

 また省力化を考えて50穴のセルトレイを使った。これが苗が大きく育たなかった原因ではないかと考えている。セルトレイだと普通の大きさのポットと比べて、土の量が少なくなる。すると根が伸びる空間も狭くなってしまう。
 根が伸びないと地上部は大きくならないので、小ぶりの苗になってしまった。小さい苗の方が根付きが良いのでは、と考えたが光合成量が少なく、根も少ないためその後に成長スピードが著しく落ちたのだろう。

来年の育苗での改善点

 失敗した結果と原因を踏まえ、育苗は次のように行うことにした。

 育苗に使う土は市販の培養土ではなくて、実際に定植する畑の土をそのまま使用する。雑草の種が含まれているため、育苗中に生えてきたものは適宜除去する。もし、手間が掛かり過ぎるようなら高熱処理などをして雑草の種を除去することも考えるが、今回はそのまま使用してみる。
 こうすることで育苗と定植後の環境変化が最小限に抑えられるし、元々肥料分に乏しい土で育苗する事で、栄養を吸収する力が強い根が育つではないかと考えている。

 また容器を大きい物に変更する。今回は50穴セルトレイ(1穴約80ml)を使用したが、12cmポリポット(約800ml)にする。こうすることで土の容量が10倍近く増える。土に含まれる栄養が少ないので絶対量を大きくして、育苗に必要な栄養素を確保しようという考えだ。土は植える場所のものをそのまま使うので足りなくなることは無い。
 根が伸びる空間を大きくなるのでたくさんの根が伸びた良い苗になるのではないかと期待している。

 育苗と定植後の環境をなるべく近づけることで定植によるダメージを少なくすることに重きを置いた。特に育苗土を圃場そのものの土を使用することは、良い結果になると思っているので楽しみだ。

 育苗は引き続き室内で日当たりの良い部屋を使って育苗することになる。夜間はストーブや電気毛布を利用して、地温を確保する必要があるため少々温度管理が難しい。十分な土地が確保できれば踏み込み温床を使ってビニールハウスでの育苗にも挑戦したい。

育苗は寒冷地では必須の技術。栽培の良しあしを大きく左右する。

 寒冷地はもちろん、温暖地でもトマトやナスのような発芽・生育に高温を必要とする野菜の栽培には育苗が必ずと言っていいほど必要になる。自然のあるがままに、を目指す自然農で育苗するのは反自然になるかもしれないが、真夏に良く育つ野菜はやはり夏に食べたいところ。すべてが全て、自然でなくてもいいんじゃないかと思うので、育苗はやってもいいんじゃないかと思う。

 「苗半作」という言葉があるほど、野菜作りにおいて苗作りは重要なポイントだ。急激な気候変動や、病害虫の蔓延といった環境変化に柔軟に対応できる苗作りを目指して、これから色々と試してみようと思っている。

 また、育苗に頼らない、夏野菜の栽培法がこれならできる! 自家採種コツのコツ: 失敗しないポイントと手順(農文協)に紹介されていた。「自然生え(じねんばえ)選抜法」という方法で、栽培が終わった後、完熟の果実をそのまま土に埋めて。春になって一斉生えてくる芽の中で強いものを選抜して育てていく。元々は育種法の技術だが、これでしっかりと収穫できれば、育苗に頼らない、より環境適応力の高い栽培法になると思う。さらに自家採種の手間を省くことが出来る。
 昨年の秋に完熟トマトを数個、地面に埋めてあるので、その経過も観察していく。また食用ホオズキも同じように土に埋めてある。

自然農で野菜を育てるときの最重要ポイントになる「種」の話し。

種を変えたら人参がしっかり太った

 2020年から不耕起、無肥料での草生栽培(自然栽培と言った方がわかりやすいかも)を始めてから、たくさんの種類の野菜を栽培してみた。肥料をあまり必要としないマメ科の野菜(大豆やスナップエンドウ)は比較的よく出来た。一方で大量の肥料を必要とするトマトやナスなどのナス科の野菜は出来が悪かった。

 出来の悪かった野菜のひとつに人参がある。最初に栽培したのは夏播きで黒田五寸だった。発芽はばっちり決まったが本葉が数枚でたあたりで成長がすっかり止まってしまって収穫できたものはほとんどなかった。

 次に今年の春に春蒔金港五寸を栽培した。春まきに適した品種だったがこれもイマイチ成長が悪かった。

 そして今年の夏播き。今回は自然農法国際研究開発センターで育種された筑摩野五寸を栽培した。4か月後の12月中旬、ばっちり太った人参が初めて収穫できた。ほぼ丸二年、不耕起、無肥料でも結構いい人参が採れた。

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筑摩野五寸は何が違ったのか

 これまで栽培していた種と自然農法国際研究開発センターの筑摩野五寸、どこが違ったのか。一番違うのは種が作られた環境にあると考えた。一言に環境といっても、そこには実に様々な要因が含まれている。

 黒田五寸、春まき金港五寸ともに採種地の記載があるだけでどのように栽培されたかまでは書かれていない。その採種地も国外の圃場のようだ。 

 おそらくだがいわゆる慣行農法の、化学肥料、農薬を普通に使用し、草が生え過ぎたら除草剤で対処するといった、よくある栽培方法で育てられているに違いない。種を売って、利益を得ているのだから、最も効率の良い方法をとっているはずだ。

 これは私たちの、肥料をできるだけ減らし、農薬・除草剤を使わず、草を敵にしない栽培と正反対である。つまり種がまかれてからの環境と全く異なる環境でできた種なわけだ。

一方、筑摩野五寸はどうかというと、これは自然農法に則って栽培され、栽培しやすいものを選抜されて固定化された品種だ。つまり、無肥料・草生栽培下で作られた種だ。この品種が出来たのは長野県で採種地も長野県となっている。土の状態も、栽培された気候・風土もかなり私たちの圃場に近いものだと思う。

 これが今回、自然農法二年目となる私たちの畑で筑摩野五寸だけがしっかりと栽培できた理由ではないかと思っている。

種の持つ記憶

 私が思うに、種は私たちが考えるよりはるかに多くの記憶を持っていると思う。

 種を買うときに見るのは、どんな姿に育つか、病気に抵抗性はあるか、収量がとれるか、味はいいかなどだろう。これらは目に見えるし、簡単に数値化して比較する事も出来る。交配種は全部同じ遺伝情報を持っているため、育つものはサイズ、味ともに揃いが良い。

 でも、そういった見えやすい情報以外に大事な点が含まれていると思う。種は自分が育った環境を遺伝子レベルで記憶しているはずだ。人間だって、何世代も日本に生まれ育った人たちと、アフリカの砂漠地帯で生まれ育った人たちで確実に違っている。

 体に合っている食べ物、気候、住居、生活リズム、全部違うはず。アジア人とアフリカ人から生まれた子供は、その後どちらの地域で育つかでもはや全く違う人間になってしまうほど大きな違いが生まれるはずだ。

 それは野菜も同じはずで、栽培に使われた肥料、農薬、その他資材や気温、水分、風の通り方によって、その種は最適な環境が変わると思う。三大栄養素はもちろん、微量要素もたっぷりの土で育ったら、その種も栄養たっぷりの土を好むだろうし、逆にあまり栄養がない土で育ったら少ない栄養でもしっかり育つ野菜になるだろう。

 肥料だけではなく、例えば気温や水分や湿度も同じだと思う。タイで育ったナスの種と、長野県で育ったナスの種、同じ品種でも同じようには育たないのではと思う。その採種を数世代繰り返したらその差は歴然だろう。
 土壌の組成も、そこで生きている微生物などの土壌生物も、国や地域、さらにはそれぞれの圃場ごとに多様な組成をしている。一つとして同じ土はない。植物は土の中の生き物と共生して生きているから当然共生関係にあった生き物の記憶も持っているだろう。

 たねがどんな環境で育ったのかがもっと重要視されてもいいはずだ。

自家採種をする、私たちなりの考え方

 自家採種は私たちの周りの環境、考え方を種に記憶させていく事だと思う。

 同じ土地で自家採種を繰り返す事で、その風土に一番合った品種に育っていくと思う。適切な養分量はもちろん、病害虫への対応力、生育ムラなども少しずつ最適化されていくはずだ。

 野菜を育てる一連のプロセスに、種を採ると言う事を加えることでより環が閉じていくと思う。野菜という命の環がぐるぐる回っていく手助けができる。

 それに種はなんといっても可愛い。自分で採った種は想像以上に気持ちがこもる。普段の栽培よりも長い時間がかかる採種だけど、少しずつ取り組んで行きたい。そして、この種に関する考察が正しいか、観察して行こうと思う。

ミニトマトの育苗をやってみよう! 幼苗定植で省力化と樹勢の強い株に仕立てる。

ミニトマトの栽培は苗作りからスタート

 ミニトマトをはじめとしたナス科、ウリ科などの果菜は、栽培期間が長く(長いもので4ヶ月ほどかかる)、発芽温度も25度前後の高温を必要とするため、その栽培には育苗することがほぼ必須となります。芽が出るくらい暖かくなってから畑に直播しても、実がなり始めるころには生育適温を過ぎて寒くなってしまいます。

 ということで、まだ寒い時期に種まきして、室内やハウス内で加温等によって生育温度を確保して苗を育てます。ホームセンターや種苗店では苗も取り扱っています。

 今年、私たちがメインに栽培しているミニトマトは自家採種した種を使っているので必然的に自家育苗となります。今回は、自分で育苗すること、そしてミニトマトの定植についてまとめていこうと思います。

自分で育苗してみる

 ホームセンターなどで売っている苗を買わずに、自分でミニトマトの苗を作るメリットは大きいです。

 まず、うまく育てれば十分良い苗ができることです。
 ミニトマトは発芽に比較的高温(25~30度)を要求しますが、その後は最高気温25度、最低気温10度以上の管理で十分です。日中日当たりのよいところにおいて、夜間は室内に取り込むこと(日だまり育苗という)でほぼ達成できます。あとは水を与えすぎないことに注意します。夜間に湿り気が多すぎると徒長しやすくなります。
 温度と水分の管理と日光にあてることを守れば自分でも育苗できます。写真は今年育苗したトマトの苗です。発芽直後に日光が乏しかったのと、50穴セルトレイで込み合ってきたので若干徒長しています。葉色、背丈、葉数ともになかなか立派に育ってくれたと思います。

210519 葉3枚目
育苗22日目のミニトマト苗

 また、好きな品種のトマトを栽培できます。ホームセンターなどの販売店では決まった苗しか取り扱いがありません。世の中にはいろいろな品種のトマトがごまんとあるので、自分の好きな品種を育てられるだけで、育苗にチャレンジする甲斐があります。私たちはトマトだけでも5品種ほど栽培するので必ず育苗しないといけません。

 そして、トマトに無理をさせない、最適なタイミングで定植できます。
 私たちが住む、長野県ではGW前後にミニトマトの苗が並びます。この苗はすでに定植サイズで花がついているものです。さっさと植えてしまわないとどんどん苗が老化していきます。
 しかし、GWではまだまだ寒い日もあり、最低気温は一桁になることもしばしば。霜は降ることもあります。1,2週間すればかなり暖かくなって植えごろになるのですが、そのころにはひょろひょろで、葉っぱが黄色くなったような売れ残りの苗しかない場合が多いです。

 自分で育苗すれば、定植日を設定して、育苗期間を逆算すれば最適なタイミングで植え付けができます・

幼苗定植のメリット、デメリット

 通常ミニトマトの苗は、本葉が8枚で果房が咲き始めているものを植えつけるのが良いとされています。これはすでに花がついている株は収穫が早い(ミニトマトは開花40日ほどで収穫になる)、成長が実をつけるほうに傾いているからといわれています。一方でまだ花がついていない苗を「幼(若)苗」と呼びます。

 植物の成長には、樹(茎や葉っぱ)が育つ「栄養成長」と花や実(いずれは次世代の種になる)が育つ「生殖成長」の二種類に分けられます。
 通常の定植サイズの苗はこのうち、栄養成長がすでに始まっているといえます。ミニトマトであれば花が咲いてから40日ほどで収穫にいたりますので、植え付けから1か月ほどで収穫できます。
 幼苗は本葉5枚ほどで定植になるので、まだまだ栄養成長真っ只中です。育苗ポットの狭い環境から広い畑に植え替えられると、一気に根を広げて葉っぱを茂らせていきます。

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2020年に植えつけたミニトマトの苗
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定植から1か月後。ちゃんと花がついた。

 樹ばかりが育ち、花がつかなかったり落ちてしまう状態を「樹ボケ」、「樹が暴れる」といいます。これは樹を伸ばすほうにだけ栄養が集中してしまい、実がつかないことをいいます。幼苗の場合、葉っぱが5枚程度とまだ花がつくには時間がある状態で植えるので、樹ボケが起こりやすいといわれています。

 樹ボケしてしまうと収穫が減ったり、遅れてしまうので困り者ですよね。ということで、最初から花がついた、「生殖成長」が始まった苗が好まれるわけです。

 一見幼苗定植は良くないじゃん、となりますが適正サイズの苗にも問題があると考えています。それは①一般に9-12cmポットで花がつくまで育っているため根が弱りやすいこと、②ポットの土に対して地上部が大きいので活着にエネルギーを使うこと、③すでに生殖成長が始まっているので樹が育たない(根張りが良くない)ことです。

 つまり、大きな苗は植えつけてからの栽培が難しくなるということです。定植直後の苗はまだまだ小さいのでどんどん根っこをのばして、枝葉を茂らせ光合成をしたい状態です。そのときにもう実がついているので、栄養をそっちに持っていかれてなかなか樹を充実させられません。結果、真夏本番のころには樹が弱ってしまい、成りつかれしてしまいます。

 一方、幼苗で植えるとまずは樹を育てることだけに栄養を使えるのでがんがん育っていきます。地上部と地下部の成長は一致しているので根っこもどんどん伸ばしていきます。すると、ちゃんと根っこを伸ばしているので梅雨明け後の乾燥期にも樹がしっかり栄養、水分を吸収でき実もしっかりついていきます。最初は遅れますが、あとから一斉に実らせてくれます。

 ミニトマトは花が咲いてから約40日で実が熟してきます。5月初旬に花つきの苗を植えて40日後に初収穫になったとします。まだ梅雨真っ只中で日照も乏しい時期のトマト、あまりおいしくなそうですよね。
 あせらず梅雨明けの7月半ば以降に収穫を迎えるほうが真夏の太陽を存分に浴びた美味しいトマトをたくさん食べられていいと思います!

200914 鈴なり
9月半ば頃。鈴なりのミニトマト。

 樹ボケをしてしまうのは過剰な栄養があるからという場合が多いです。小肥で樹を育て、花がついてから様子を見て追肥を行う管理をします。

 また育苗期間もかなり短くできます。
 通常の適正サイズにするには約2ヶ月ほどかかります。まずは育苗箱やポットに複数播きして、本葉が2,3枚出たらポットに鉢上げして、さらに花がつくまでと、約2ヶ月弱かかります。花がつくほど大きい苗だと9cmポットでも小さいくらいでそれによって土の使用量も増えてきます。

 一方、私たちが行っている幼苗育苗では約3週間の育苗期間で植え付けサイズになるので時間が半分で済みます。しかも、育苗期間が短いので最初から最後まで50穴セルトレイで育苗できます。写真は発芽2週目の苗の様子です。少し葉っぱが触れ合ってきましたがまだ十分なスペースがあります。72穴セルトレイだと少し窮屈すぎるかもしれません。

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育苗22日目のミニトマト苗

ミニトマトの植え付けまであと少しです

 今年のミニトマト栽培、まずは植え付けが五月の終わりに待っています。

 夏野菜の植え付けはGWあたりといわれており、私たちの住む長野県でも第二週までには植え付けが終わっている人が多く見られます。ホームセンターでは植え付け間近の苗がGW前から売られているので、良い苗を買うには早くしないといけないので仕方がないことなのかもしれません。

 トマトは最低気温が15度を超える日が出てきてから、平均気温が17度ほどになってから植えたほうが、生育に影響を与える低温を回避できます。なので私たちは5月の第4週に植え付けの予定とし、それにあわせて苗を育てています。今年は、梅雨が例年より早く訪れるようなので、天気を見ながら定植していきたいと思います。

 収穫は遅れますが、梅雨が明ける7月中旬の真夏から収穫できるミニトマトは最高に甘くておいしいです。樹も体力があるので10月上旬まで収穫できます(この頃には大分味は落ちますが)。

 同じようにナスも高温を好む植物なので無理な早植えはせずに6月頭の植え付けの予定でいます。野菜は旬の時期が一番おいしい、と考えて適期栽培を守ります。