自然農で野菜を育てるときの最重要ポイントになる「種」の話し。

種を変えたら人参がしっかり太った

 2020年から不耕起、無肥料での草生栽培(自然栽培と言った方がわかりやすいかも)を始めてから、たくさんの種類の野菜を栽培してみた。肥料をあまり必要としないマメ科の野菜(大豆やスナップエンドウ)は比較的よく出来た。一方で大量の肥料を必要とするトマトやナスなどのナス科の野菜は出来が悪かった。

 出来の悪かった野菜のひとつに人参がある。最初に栽培したのは夏播きで黒田五寸だった。発芽はばっちり決まったが本葉が数枚でたあたりで成長がすっかり止まってしまって収穫できたものはほとんどなかった。

 次に今年の春に春蒔金港五寸を栽培した。春まきに適した品種だったがこれもイマイチ成長が悪かった。

 そして今年の夏播き。今回は自然農法国際研究開発センターで育種された筑摩野五寸を栽培した。4か月後の12月中旬、ばっちり太った人参が初めて収穫できた。ほぼ丸二年、不耕起、無肥料でも結構いい人参が採れた。

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筑摩野五寸は何が違ったのか

 これまで栽培していた種と自然農法国際研究開発センターの筑摩野五寸、どこが違ったのか。一番違うのは種が作られた環境にあると考えた。一言に環境といっても、そこには実に様々な要因が含まれている。

 黒田五寸、春まき金港五寸ともに採種地の記載があるだけでどのように栽培されたかまでは書かれていない。その採種地も国外の圃場のようだ。 

 おそらくだがいわゆる慣行農法の、化学肥料、農薬を普通に使用し、草が生え過ぎたら除草剤で対処するといった、よくある栽培方法で育てられているに違いない。種を売って、利益を得ているのだから、最も効率の良い方法をとっているはずだ。

 これは私たちの、肥料をできるだけ減らし、農薬・除草剤を使わず、草を敵にしない栽培と正反対である。つまり種がまかれてからの環境と全く異なる環境でできた種なわけだ。

一方、筑摩野五寸はどうかというと、これは自然農法に則って栽培され、栽培しやすいものを選抜されて固定化された品種だ。つまり、無肥料・草生栽培下で作られた種だ。この品種が出来たのは長野県で採種地も長野県となっている。土の状態も、栽培された気候・風土もかなり私たちの圃場に近いものだと思う。

 これが今回、自然農法二年目となる私たちの畑で筑摩野五寸だけがしっかりと栽培できた理由ではないかと思っている。

種の持つ記憶

 私が思うに、種は私たちが考えるよりはるかに多くの記憶を持っていると思う。

 種を買うときに見るのは、どんな姿に育つか、病気に抵抗性はあるか、収量がとれるか、味はいいかなどだろう。これらは目に見えるし、簡単に数値化して比較する事も出来る。交配種は全部同じ遺伝情報を持っているため、育つものはサイズ、味ともに揃いが良い。

 でも、そういった見えやすい情報以外に大事な点が含まれていると思う。種は自分が育った環境を遺伝子レベルで記憶しているはずだ。人間だって、何世代も日本に生まれ育った人たちと、アフリカの砂漠地帯で生まれ育った人たちで確実に違っている。

 体に合っている食べ物、気候、住居、生活リズム、全部違うはず。アジア人とアフリカ人から生まれた子供は、その後どちらの地域で育つかでもはや全く違う人間になってしまうほど大きな違いが生まれるはずだ。

 それは野菜も同じはずで、栽培に使われた肥料、農薬、その他資材や気温、水分、風の通り方によって、その種は最適な環境が変わると思う。三大栄養素はもちろん、微量要素もたっぷりの土で育ったら、その種も栄養たっぷりの土を好むだろうし、逆にあまり栄養がない土で育ったら少ない栄養でもしっかり育つ野菜になるだろう。

 肥料だけではなく、例えば気温や水分や湿度も同じだと思う。タイで育ったナスの種と、長野県で育ったナスの種、同じ品種でも同じようには育たないのではと思う。その採種を数世代繰り返したらその差は歴然だろう。
 土壌の組成も、そこで生きている微生物などの土壌生物も、国や地域、さらにはそれぞれの圃場ごとに多様な組成をしている。一つとして同じ土はない。植物は土の中の生き物と共生して生きているから当然共生関係にあった生き物の記憶も持っているだろう。

 たねがどんな環境で育ったのかがもっと重要視されてもいいはずだ。

自家採種をする、私たちなりの考え方

 自家採種は私たちの周りの環境、考え方を種に記憶させていく事だと思う。

 同じ土地で自家採種を繰り返す事で、その風土に一番合った品種に育っていくと思う。適切な養分量はもちろん、病害虫への対応力、生育ムラなども少しずつ最適化されていくはずだ。

 野菜を育てる一連のプロセスに、種を採ると言う事を加えることでより環が閉じていくと思う。野菜という命の環がぐるぐる回っていく手助けができる。

 それに種はなんといっても可愛い。自分で採った種は想像以上に気持ちがこもる。普段の栽培よりも長い時間がかかる採種だけど、少しずつ取り組んで行きたい。そして、この種に関する考察が正しいか、観察して行こうと思う。

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