時代に逆行する自然卵養鶏を志したわけ

 私たちは兼ねてから自然卵養鶏を暮らしの中に取り入れていきたいと考えてきた。自給自足を目指すうえで卵と肉を自給できる養鶏は魅力的だと思ったからだ。その中でも、現代では僅かとなった自然卵養鶏を知った。自然卵養鶏は、数でこそ少ないが全国的に実践者がおり、ノウハウが蓄積されている。
 自然卵養鶏には自然豊かな土地が必要で、丁度私たちの理想の暮らしを送れる場所に合致していた。

 自然卵養鶏と自然農を思う存分できる場所を探して、ここ二年間ほど定住する土地を探して来た。最近になって、岩手県で知り合った方から畑や家を紹介して頂き、移住することを決めた。いよいよ自然卵養鶏を本格的にスタートさせることができる。
 そこで改めて、自然卵養鶏について紹介し、自分自身の中でも整理をしようと思う。なお、自然卵養鶏は創始者である中島正さんが著した『自然卵養鶏法』を以前紹介したことがある。今回の記事で興味を持った方はぜひ読んでみてほしい。

生産性、安全性ともに優れた現代の採卵養鶏

 卵は価格の優等生と言われ、多少の値上がりはあれど、長い間安定した価格で推移している。三重県のホームページに掲載されていた統計情報によると、卵1kg当りの価格は昭和40年で219円、平成25年で340円とたった120円しか上がっていない。これ他の物品と比べてもはるかに少ない上り幅だ。例えば牛肉は約3倍、映画観覧料は約9倍になっている。
【Hello!とうけい】vol202 「卵は物価の優等生?」

 その背景には養鶏業界の努力と技術開発がある。機械による給餌管理や衛生的な飼育管理や大容量の鶏舎、経営努力など、様々な要因がある。機械化による大規模、効率化は進み、一人あたり十万羽の鶏の管理をする養鶏場も少なくない。その結果、日本の養鶏業界は世界的にも高品質な鶏卵を安定的に生産している。卵を生食するのは日本くらい、というのは良く耳にするだろう。それは日本の卵がいかに衛生的に管理されているかを表している。

 一方で世界的にアニマルウェルフェアが重視され始め、現状使われているバタリーケージによる飼育を改善しようという動きがあったり、また輸入に頼る飼料価格の高騰など日本の養鶏は転換期を迎えているのもまた事実だろう。価格の優等生と言われてきた卵もいよいよ価格高騰の時代になってきたと言える。

現代とはすべて真逆の自然卵養鶏

 自然卵養鶏とは中島正さんが実践していた養鶏法だ。『自然卵養鶏法』が書かれたのは1980年(昭和55年)で、今から40年も前のことだ。その当時は既に養鶏は大規模化、効率化の道を進んでおり、価格の優等生として安定供給されていた。

 中島さんはそのような大規模、生産的な養鶏を企業養鶏と称し、自身の自然卵養鶏との対比を説きながら、その養鶏法を紹介している。

 自然卵養鶏は当時、そして今も行われている企業養鶏とすべてが正反対のことをする養鶏法だ。40年たった今でも、それは変わらず自然卵養鶏の特徴だ。

 大きな違いは餌だ。数万羽単位での養鶏を行うには、大量の餌を確保するために外国からの輸入に頼らないといけない。食糧増産も限界を迎えていると言われている中、輸入飼料に頼らざるを得ない状況は改善していかなくてはならない。
 自然卵養鶏ではどんなに多くとも、1000羽程度の小規模養鶏を基本としている。小規模だからこそ、餌も地元の飼料や残渣を活用できるようになる。豆腐作りで出るおからや、精米の時に出るぬかやもみがらなどのあまり使われていない資源を上手く活用することで、その地域の中で循環する養鶏が出来る。
 また緑餌といって、青草をたくさん与えるのも自然卵養鶏の特徴だ。本来鶏は草を食べる生き物だ。草を食べさせることで鶏本来の食欲を満たし、病原菌への免疫を向上させたり、精神的にも満足させることが出来る。しかし、企業養鶏では草を与えることは無い。

 この真逆の養鶏法こそが、健康で美味しい卵を産みだしてくれる。一般的には考えられなような管理かもしれないが、全国で実践者が居ることは、この養鶏法が間違っていないことを証明している。

本当においしい卵

 自然卵養鶏を着実に実践して生み出された卵は本当においしい。まず、生臭みがない。市販の卵は生で食べると、生臭いことがある。何なら薬品臭がすることもある。

 だが、自然卵は無臭だ。生のまま口に入れても香りはしない。そして、純粋に卵の味がする。これが本来の卵の味なのかと気づく。卵の味がするというのが感動するほど、今の卵は味がしないということだと思う。

 私は平成の生まれなので、現代的な卵しか知らない。年配の方々に自然卵養鶏の話しをすると、口をそろえて「昔の卵は味がよかった」という。でも今ではその味をもつ卵を手に入れるのは難しくなったと言う。そういう卵があれば多少高くても買うとも言っていた。

 信じられない人はぜひインターネットで「自然卵養鶏」と検索してみてほしい。たくさんの自然卵養鶏農家のホームページがある。多くの農家はオンラインで注文できるため、だまされたと思って買ってみて欲しい。きっとわかってもらえると思う。
 おすすめは中島正さんのお孫さんと、その旦那さんが販売している「のびのびたまご」だ。

自然と調和した暮らしを送るなら自然卵養鶏ではないか

 自然卵養鶏は1年を通じて、安定した量の卵を生産する事は出来ない。鶏は寒い冬や真夏の暑い時期は卵を産まなくなるからだ。自然のサイクルに合わせると、鶏が勝手に自分の産卵をコントロールするようになる。一方、通常の養鶏ではそういうわけにはいかない。年中安定供給を実現するために、空調での温度管理をしなければならなくなる。

 鶏舎は窓がない、自然から隔離された空間ではなく、地面が土間で開放型の平飼い鶏舎を用意する。太陽光が当たることが人間の健康に重要であるのと同じように、鶏も太陽が当たる環境を用意することで健康に過ごす事が出来る。

 鶏をなるべく自然の中で飼おうとすると、自分達も自然の中で暮らす事になる。自然と鶏のリズムに人間のリズムを合わせる。それは普通に町で暮らす人には出来ないことだ。そんな自然と調和した暮らしはもはや、贅沢な暮らしになるのではないだろうか。お金では買えない価値がそこにあると思っている。

2023年の導入を目指しています

 今の予定では岩手県に4月から移住する事になっている。借りられる土地は数年間耕作されておらず、少々荒れているため整備から始める。家の目の前にまとまった土地が3反歩ほどあり、どこに鶏小屋を建てるか、畑を作るか、探り探りになるだろう。

 5月には鶏小屋を建て始め、様子を見て年内の導入を考えたいと思う。雛の導入は3~8月に行うのが適切とされているため、遅くとも8月には最初の雛を迎えられるように準備したいと思う。

「時代に逆行する自然卵養鶏を志したわけ」への2件のフィードバック

  1. はじめまして。
    岩手県盛岡市に在住のアツミという者です。
    盛岡で有機農業の手伝いをしながら少し畑をしていまして、
    今年からもう少し大きく畑ができないかと模索中です。
    自然養鶏も少し興味あり、自然養鶏で検索していたら、お二人で2023年4月に岩手県移住予定とあったので、気になりまして連絡させていただきました。
    差し支えなければ岩手県のどこの地域で自然養鶏を始められるのか教えていただければと思っています。

    1. コメントありがとうございます。
      今春から久慈市に移住しまして、現在鶏舎を立てる場所を整備しているところです。
      インスタグラムでも少しずつ情報発信していきますのでぜひご覧ください。

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